全国700種以上の銘酒を集めた日本酒の祭典「こだわり千花繚乱 日本酒まつり」が盛大に行われている横浜市西区の横浜高島屋。
日本各地から40を超える蔵元の自慢の日本酒がずらりと並び、20メートル以上の長いスタンドカウンターが特設されるなど、日本酒一色で埋め尽くされた会場は圧巻です。
20メートル以上の長いスタンドカウンターには、ゆうに50人がいっぺんに立ち飲みを楽しめます=横浜市西区の横浜高島屋 (写真・田中幸美)
そんな会場の一角に、4、5人が立ったらいっぱいになるような小さなL字型のカウンターがあります。そばには数点の和菓子の販売コーナーも見られます。「和菓子と日本酒のマリアージュ」を提唱する山形市の老舗和菓子屋「乃し梅本舗 佐藤屋」八代目、佐藤慎太郎さんのコーナーです。「居並ぶ酒屋さんたちの中でアウェイ感満載ですが、マイペースでやります」と話します。
「乃し梅本舗佐藤屋」のコーナーにある酒と和菓子の見本には八代目の趣向が凝らされています
和菓子と日本酒…。「えっ」と思われる人も多いかと思いますが、意外や意外、一緒にいただくことによって相乗効果をもたらしたり、相方の存在を引き上げたりするなどの相性のよさが期待されます。今回、自らの和菓子に加え、地元山形の酒と福島の酒約10種類を紹介しています。
「乃し梅本舗 佐藤屋」自慢の菓子の数々
佐藤さんお薦めの和菓子と日本酒の〝お似合いのカップル〟を紹介しましょう。
「あいの風」という菓銘の上生菓子は、白とペパーミントグリーンの色合いが美しい一品です。ヤマイモのきんとんで、中は黒文字(くろもじ)の葉っぱを乾燥させたものを練り込んだあんです。ちなみに黒文字は和菓子を食べるときに使うあの高級ようじのこと。黒文字のあんはスッと抜けて山椒のような香りがします。
白とペパーミントグリーンの色合いが美しい「あいの風」は一陣の風が吹き抜けるよう
それに合わせる酒として佐藤さんが選んだのは「六根浄」。地元ではメディアにたびたび登場するなど注目の純米酒専門店「正酒屋 六根浄」(山形市平清水)のオリジナル商品です。
この酒はほどよく酸味があるキレのいいタイプで、食中酒として使われる機会が多いのですが、食事と一緒にいただくうちに意外に酸味に気付かないようになってしまいます。そこで、「黒文字のような鼻に抜ける香りを味わってから酒を飲むと、鼻に意識が集中して改めて酒の持つ酸味に気付かされます」と佐藤さん。「和菓子が酒本来のよさや特徴を引き出す効果があるのです」と話します。
「六根浄」と「あいの風」 の組み合わせは〝相思相愛〟といった感じです
さらに別のカップリングを。「東の麓 天弓 翠雨」(てんきゅうすいう・山形県南陽市の「東の麓酒造」)は、マロラクティック 醸造というワインを作る際のリンゴ酸を使った発酵方法を採用しています。ほのかな青リンゴのような香りや酒特有のアルコールの香りがしますが、店の看板商品「乃し梅」と生チョコレートと合わせた新しいタイプのチョコ和菓子「たまゆら」と一緒にいただくと、「あら不思議!」。「急にその独特の発酵の意味がわかってきて、酸味もちゃんと立ちます」(佐藤さん)。
ネオ和菓子とも称される「たまゆら」
六根浄とあいの風は、相乗効果でお互いに高め合いますが、天弓は〝相方〟のたまゆらによって引き上げられる感じといいます。ちなみにこちらで紹介する酒は販売していませんが、会場にある似たようなテイストの酒を紹介してくれるので、和菓子と酒を自宅でも味わえます。
「天弓」と「たまゆら」のカップリングは、〝さながら運気を引き上げるあげまん〟ならぬ〝あげ菓子〟といったところでしょうか
山形は酒所。佐藤さんの父、松兵衛さんが酒にこだわりを持っていて常に食事に合う酒選びを楽しんでいたことなどから、幼少時より酒が身近にあったといいます。また、修行先の京都の老舗和菓子店の主人が、ワイン会などで和菓子の提案をするのを常にそばで見ていたことや、修行後に膝をけがしてリハビリをしながらメキシコ料理店で酒を扱うアルバイトをした経験などから酒と和菓子のマリアージュに行き着くのに時間はかからなかったようです。
とにかく熱い日本酒トークが楽しい佐藤さん。その世界にすぐに引き込まれます
佐藤さんは、老舗和菓子店の若旦那で結成した「若き匠たちの挑戦」(通称ワカタク)のメンバーで、「和菓子をちょっと自由に」をモットーに自由な発想で新しい感覚の和菓子を発信し続けています。和菓子と酒のマリアージュもその一環。最近では、酒のイベントにも頻繁に声がかかるそうです。
佐藤さんのモットーは「和菓子をちょっと自由に」
佐藤さんは「怖がらずに一歩踏み出してください」と話します。そして「和菓子は甘いに特化していますが、甘いと渋いと辛い、そして苦いというさまざまな味覚があります。酒の方は複雑な味の組み合わせがあるんすけれども、足りない部分をお菓子で補ってあげると、すごくちょうどよくなる」そうです。
そう薦められると和菓子と酒のコンビネーションを試してみたくなります。自信のない人、よくわからない人は29日(月)まで開催している「日本酒まつり」に急いでください。
◆「日本酒まつり」は、横浜市西区南幸1-6-31の「横浜高島屋」8階催会場で。29日(月)まで、午前10時~午後8時(29日は午後6時閉場)。問い合わせは☎045・311・5111(代表)。