20周年記念公演「鱗人輪舞」の制作発表記者会見に臨むDAZZLEのメンバーと作曲家の林ゆうきさん(中央)。左から4人目が主宰の長谷川達也さん (写真・田中幸美)

結成20周年のダンスカンパニー「DAZZLE」が記念公演「鱗人輪舞」


 ジャズやストリートなどさまざまなダンススタイルを融合し、独自の世界観で独創的な作品を次々と世に送り出してきたダンスカンパニー「DAZZLE」(ダズル)。今年結成20周年を迎えた記念公演のタイトルは「鱗人輪舞」(リンド・ロンド)です。DAZZLEを主宰する長谷川達也さんによると、「鱗(うろこ)の人」とは人魚のことだそう。「輪舞」は踊ることです。さらに「輪になる」とか「繰り返す」、引いては「輪廻」という意味も含まれるので、千年を生きる人魚が運命を繰り返したり、人が輪廻するのを目の当たりにするという意味合いを込めて「リンド・ロンド」と名付けたと言います。
 長谷川さんは学生のころ読んだ「不老不死」の話がずっと心のどこかに引っかかっていて、いつか物語にしたいと考えていたそうです。そして20周年の節目には後世に残る「不朽の名作」となるような作品を生み出したいと切望。「不朽」「永遠」をキーワードにしたときたどり着いたのが「人魚」でした。それも外国のマーメイドではなく、日本の「八百比丘尼」(やおびくに:長寿伝説の尼で、人魚の肉を食べて800歳まで生きたとされ、肌が娘のように白かったという)の伝承をモチーフにしたということです。
 「鱗人輪舞」のストーリーはこうです。大気汚染で荒廃し、海も枯れ果て人々は水を奪い合う殺伐とした世界で、人を信じることのできなくなった孤独な男が、人ではないものと出会います。それは千年の時を越えて生きる人魚でした。男は出会いを通して閉ざされた心を開き始めますが、2人は大きな運命の波に飲み込まれていきます。その結末は…。
 今回の公演の大きな特徴は観客に2つの結末のどちらか選んでもらう観客参加型の「マルチエンディング」と呼ばれる方式を採用していることです。演劇の公演などではよく見られますが、ダンス公演では異例です。長谷川さんは「今回のテーマの大きな1つである〝決断をする〟ことを観客のみなさんに体験していただきたいと思います」といいます。現代では重要な決断を避ける風潮がありますが、「物語の一員になっていただき自分たちの未来を他人に委ねるのではなく、自分の手で選んでほしい」と説明しました。
 2つの結末のうち片方はすんなりとできたそうですが、「もう1つの結末はすごく悩みました。選択がどちらかに偏ってはいけないので」といいます。なかなか決まらなかった結末は、脚本を担当したメンバーの飯塚浩一郎さんや他のメンバーらと話し合いを繰り返して決定したそうです。実際の公演で2つの結末から選択する方法については当日までのシークレット。しかし、14日から23日までの全14回の公演の結末がすべて同一という可能性も考えられます。それについては「僕たちもわからないので、もしかしたら練習していったけれども無駄になるようなこともあるかもしれません」と説明していました。後日発売予定の作品DVDには両方の結末を収録するそうです。

20周年記念公演に向けて稽古に集中するDAZZLEのメンバ-。右から3人目が主宰の長谷川達也さん(写真・田中幸美)


20周年記念公演に向けて稽古に集中するDAZZLEのメンバ-(写真・田中幸美)


 さらにDAZZLEの舞台では音楽も重要なパートを占めます。DAZZLEのほとんどの楽曲を制作しているのは、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)「あさが来た」をはじめ、ドラマ「リーガル・ハイ」シリーズ(フジテレビ系)や映画「ONE PIECE FILM GOLD」などで知られる作曲家の林ゆうきさんです。林さんは元男子新体操選手で、競技者として自分や他の選手のために音楽作りを始め、オリジナルのサウンドトラックを作りたいと独学で作曲活動を始めた異色の音楽家です。
 長谷川さんは「身体表現に対して音を当てていくということにたけている。踊れる曲であると同時に、僕たちの作る物語の情景やキャラクターの感情などを表現する音楽でもある」と林さんの音楽の魅力を解説しました。さらに「細かい発注に柔軟に対応して、想像を超えた素晴らしい楽曲を作ってくださる。すごい才能です」と手放しでたたえました。
 これに対して林さんは「達也さんの発注は本当に細かい。ここに出して見ていただきたいくらいすごいんですよ」とユーモアを交えて話しました。「映画やアニメなどいろいろやっていますが、これだけ具体的にこうしてほしいというのが頭の中でできている表現者は珍しい。もう達也さんの頭の中で音楽が鳴っているんですね」といいます。
 そして、「達也さんの頭の中にある音を掘り出す修行のようなことをやっていますが、映像と音楽がプラスではなくて、掛けるになり鳥肌が立つような瞬間を作れることがあります。DAZZLEにはその瞬間が無数にあって作曲家冥利に尽きるなと思います」と話していました。

20周年記念公演の制作発表会見に臨む(左から)DAZZLEの主宰者、長谷川達也さんと作曲家の林ゆうきさん、初期メンバーの金田健宏さん=東京都港区(写真・田中幸美)


 さらに今回の音楽の〝聞きどころ〟としてDAZZLE作品初の挿入歌が披露されます。作曲はもちろん林さんですが、歌っているのはあの超奇天烈なダンスグループ「東京ゲゲゲイ」のMIKEY(マイキー)こと牧宗孝さんです。牧さんは5月に行われたダンス公演「ASTERISK」(アスタリスク)でもエンドロールで心に響く素晴らしい歌声を披露して感動を誘いました。長谷川さんは作詞を手がけた飯塚さんとより人が感動する舞台の演出は何かと考え、「歌の力は大きい」という結論に達したといいます。そして「MIKEYは心に響く特別な声の持ち主。ただうまいだけでなく、情念のようなものを感じさせる歌声がこの作品には絶対に必要」と、迷わず依頼したそうです。
 マルチエンディングにMIKEYの歌う楽曲と初の試みが詰まった20周年記念公演。「花ト囮」は紛れもなく彼らの代表作ですが、これに匹敵する素晴らしい作品となることは間違いありません。芸術の秋、DAZZLEの公演を見逃す手はありません。

人を魅了する歌声の持ち主である「東京ゲゲゲイ」主宰のMIKEYこと牧宗孝さん(写真・田中幸美)


 ◆DAZZLE結成20周年記念公演「鱗人輪舞」(リント゛・ロンド)は、東京都豊島区東池袋4-5-2の「あうるすぽっと」(豊島区立舞台芸術交流センター)で、14日(金)~23日(日)。問い合わせと申し込みは☎0570・550・799キョードー東京まで。
DAZZLEオフィシャルHPは http://www.dazzle-net.jp/


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