書道やコミック本などに刺激を受け、圧倒的な筆の勢いと独自の画風で勝負するベルギーの現代美術を代表する芸術家 ピエール・アレシンスキー氏(1927年~)の作品約80点を集めた「ピエール・アレシンスキー展」が、渋谷区道玄坂のBunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。
最初のコーナー『コブラに加わって』では、1948年に結成された前衛美術家集団コブラ(CoBrA)のメンバーとなったアレシンスキー氏が制作した版画や絵画を展示。左利きを矯正され、左手は絵を描く手、右手は文字を書く手としていた彼の油彩画《夜》は、表象とも文字ともつかないものが覆い尽くしている作品です。コブラは51年に解散。その後、アレシンスキー氏は、日本の前衛書道誌「墨美(ぼくび)」に出会い、墨でも作品を制作しました。『「書く」から「描く」へ』では、「正しい描き方」を模索していたその当時の作品を紹介しています。
《夜》1952年、油彩、キャンバス、大原美術館蔵 © Pierre Alechinsky, 2016
「書道」の自然な筆さばきに魅了されたアレシンスキー氏は次第に大きなサイズのキャンバスや紙を書道のように床に置いて描くようになりました。そして、即興的な制作に向かない油彩に限界を感じていた彼は、アメリカで出会ったアクリル絵具を使い、ダイナミックな筆使いの作品を生み出しました。続く、『取囲まれた図形』では、そんな時代のアレシンスキー氏が、コミック本に影響を受け、周囲をマンガのような小さな絵で囲む独自のスタイルで描いた《肝心な森》などを展示しています。
『記憶の彼方』では、文字と言葉へのこだわりのあるアレシンスキー氏が、蚤の市や古本屋で手に入れた書類や帳簿、証明書、地図などに描いた作品を紹介、《あなたの従僕》は、ポストカードに描かれています。また、街のマンホールに紙を当てて模様を浮き出させるフロッタージュ技法を取り入れた《ローマの網》なども観ることができます。
《ローマの網》1989年、インク・アクリル絵具、拓本、キャンバスで裏打ちした紙、作家蔵© Pierre Alechinsky, 2016
最後の『おとろえぬ想像力』では、90歳近い今も、新たな挑戦を続けるアレシンスキー氏の斬新な円形の作品などが楽しめます。
アレシンスキー氏の〝走る筆〟を体感できる展覧会です。12月8日まで。
ピエール・アレシンスキー展
会場:渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura ザ・ミュージアム
開館時間:10:00~19:00(金・土曜日は21:00まで)
入館料:一般1400円/大学・高校生1000円/中学・小学生700円