このまま続くはずだった日常が、突如、暗転する。
72年前の8月6日の広島でも、戦時下とはいえ、ある瞬間を境に生命や暮らしが壊滅的に失われるとは、誰が予想しただろう。
「その日の名残」と題した作品がいま、広島市現代美術館で展示されている。焼け焦げ炭化した木片だが、かろうじてそれらがベッド、テーブル、大人と子供が座る椅子であることがわかる。そこにいたはずの、家族の気配も。作者は英国を拠点に国際的に活躍するアーティスト、モナ・ハトゥム(65)。第10回ヒロシマ賞の受賞を記念し、日本初の個展が同館で開かれている。
ハトゥムは1952年、中東戦争で祖国を追われたパレスチナ人の両親の下、レバノンの首都ベイルートで生まれた。75年、英国を旅行中にレバノン内戦が勃発、家族と離ればなれのまま帰国できなくなる。以降、ロンドンにとどまって美術を学び、生まれながらにして異境で生きる自己の複雑な境遇をもとに、表現を始めた。
