photography=SAORI TAO

vol.8 点呼する きみもさくら、あなたもさくら 春の夜ってみじかいからね[岡本真帆のうたかたの日々 日付のない日記]

コラム

点呼する きみもさくら、あなたもさくら 春の夜ってみじかいからね

 冬のあいだ、ずっと気になっていたレモンイエローのショートダウンがあった。ラムネ菓子を思わせるその淡い黄色は、眺めているだけで気持ちが明るくなる。オンラインストアの商品ページをじりじりと見つめては、ため息を吐いて閉じた。冬の初めに、新しいコートを買ったばかりだったのだ。

 セールで30%オフになっても、まだ私は我慢していた。そして3月。在庫がとうとう残り一点になった。今を逃せばもう手に入らない。画面の前で腕を組み、しばらく唸ってから、私は購入ボタンを押した。

 届いた箱を開けると、明るい色がぱっと目に飛び込んでくる。着てみると軽くてあたたかい。思ったよりも丈が短いけれど、持っている他のコートとは違う着こなしができそうでいい。冬の服なのに、春みたいにうれしかった。

 4月になった。お花見のシーズンだ。昼は20度近くまで上がる日もあるけれど、夜はまだ肌寒い。寒がりの私には、このダウンがちょうどいい。暑ければ脱げばいいのだ。長袖のTシャツとトレーナーを合わせて、身軽に出かける。

 春だ。どこへでも行けそうな気がする。

 このダウンを着ていると、夜風の冷たさが少しだけ心地よくなる。涼しいと素直に思える季節は、気づけばどんどん短くなっている。だから、この春の夜が愛おしい。


岡本真帆(おかもと・まほ)
歌人・作家。1989年生まれ。高知県出身。2022年に第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)、2024年に第二歌集『あかるい花束』(ナナロク社)を刊行。最新刊に、自身の好きなものを短歌とエッセイで表現した『落雷と祝福』(朝日新聞出版)がある。



コラム


この記事をシェアする

LATEST POSTS