明るい色彩と力強い筆致で昭和の画壇に確固たる地位を築いた洋画家、猪熊弦一郎(1902~93年)。猫をモチーフにした作品に焦点を当てた展覧会が東京のBunkamura ザ・ミュージアムで開かれている。画家が愛した小さな動物への愛に満ちた世界を堪能することができる。(渋沢和彦)
裸婦や鳥などの作品で高く評価されていた猪熊。30歳のとき、猫を抱く妻を描いて以来、猫をモチーフにした作品を数多く制作していた。
例えば「猫によせる歌」。奥行きのない平面的な油彩画で、人物や猫が直線や曲線で構成されている。ほぼ中央に配置された白い猫が主役の記念写真のようだ。そのほかの猫たちは、人の足に絡まったり頭に乗ったり、抱かれたり。いったい何匹いるのだろうか。単純化したフォルムで、四角い顔やしま模様の胴体が描かれている。耳は角のようにデフォルメされ、記号のようにデザイン化された猫もいる。それなのに、怪訝(けげん)そうににらむ顔などそれぞれに異なる表情は人間以上の存在感があり、作者の猫への優しさがあふれる。
