60種類以上の線香を、温度や太さなどで使い分け、下書きなしに少しずつ紙を焦がしながら描くスタイルで、「現代絵画を全く異なる方向に大きく旋回させた」と称される美術家 市川孝典氏の線香画を集めた展覧会「grace note」が、渋谷区渋谷のES galleryで開催されています。
会場には、市川氏が少年期に古城を探し歩き回った森で見た風景をもとに制作した新作14点を展示。自分の記憶をたどって線香の焦げ跡で描かれたモノクログラデーションと無数の穴は、触れただけで崩れてしまいそうな緊張感を持っています。
展覧会のタイトル「grace note」は音楽用語で、装飾音としてリズムの隙間に使われる音のこと。3年前の個展「murmur」では、微かに聞こえる森の〝ざわめき〟を表現しましたが、新作では、静寂の中にある音や〝ざわめき〟と〝ざわめき〟の間の微かな移ろいを描き出しています。

市川氏は13歳のとき、とび職で貯めたお金を持って、あてもなく単独で米ニューヨークへ。アメリカやヨーロッパ各地を巡る間に絵画と出会い、独学で作品制作に取り組み始めました。帰国後、その類まれな体験をした少年期の薄れゆく記憶をもとに、線香の微かな火を使って絵を仕立てる新しいスタイルで作品を発表。国内外で熱い注目を浴びています。

市川氏にとって記憶が消えることは恐怖であり、記憶を目に見えるものとして残すことは、その恐怖からの解放を意味します。新作のコラージュ作品は、微かな記憶を頼りに描いた森の風景を一度切り離し、風景の中に空間を作り出すことで、視界の外や奥にあったであろう、時間とともに蘇る〝記憶の内側にある風景〟を描いています。

市川氏がつくりだす唯一無二の世界を感じに、会場へ足を運んでみて下さい。
市川孝典 個展 grace note
会場:ES gallery(渋谷区渋谷2-7-4 elephant STUDIO 2F)
会期:2月3日(金)まで。会期中無休
開廊時間:12:00~20:00
問い合わせ:080-4717-0611
入場無料