喧騒の街の隙間には、小さな「ポケット」のような空間がある。昼休みのひととき、あるいは週末の静かな時間に気持ちをリセットできる、東京メトロ沿線のさまざまな穴場スポットへ。
歴史とアートが混在する街。
清澄庭園や深川江戸資料館、松平定信の眠る霊巌寺など、江戸風情を色濃く残す清澄白河に東京都現代美術館が開館したのは1995年のこと。それに呼応するように、周辺にはギャラリーや美術関係者のアトリエなどが点在し、アート好きも多く訪れる街として知られている。そんな清澄白河に降り立ったのは、「TOKYO ART BOOK FAIR(TABF)」の真っ只中。会場の現代美術館へ向かうであろう人びとを横目に訪ねたのは、2010年にこの地にお店を構えた〈smokebooks〉だ。写真、建築、音楽、ファッションなどアート関連の古本を中心に一部新刊やCDなども取り揃え、美術館の前後に立ち寄る人も多い。店名は、燻されるように年月を重ねた古本と映画の『SMOKE』をかけ合わせたと店主の北澤さんが教えてくれた。途中、お向かいの和菓子屋のお母さんが立ち寄ったり、TABFへ出展する版元さんが店の外からあいさつしたり、その存在は、まるで映画のなかに出てきた街角のタバコ屋さんそのものだった。
そこから徒歩3分ほどの路地に佇む〈stoop〉は、オーナーの関直宏さんが海外で買い付けたヴィンテージ家具が〝一堂に会する〟ショップ兼ギャラリー。世界最大規模の家具の見本市、ミラノサローネに合わせて毎年欧州を訪れ、なんと6000㎞もの陸路をトラックで移動しながら各地の家具を買い付けるという。隠れ家のような離れの2階には、アルヴァ・アアルトの「Model 21Chair」や「イタリアモダンデザインの父」と称されるジオ・ポンティの「Superleggera Chair」、フランスのアンドレ・ブルックによる「Bellevue Chair」など、名作中の名作ともいえる巨匠たちの家具が勢揃い。1階では平野泰子や福田周平といった現代作家の展示も定期的に行うなど、まるで現代美術館の別館かと見紛うほどみどころに溢れている。戦後期の木造家屋と作品との見事な調和も必見だ。
イースト東京の新たな拠点。
最後に訪れたのは、現代美術館から徒歩約5分ほどの印刷スタジオ〈STUDIO tuuli〉。「東京の東側にリソグラフ印刷ができる場所がなかった」と、オーナーの青澄さん、木村さん夫妻が2025年3月にオープンした。予約制でリソグラフやシルクスクリーンができるスタジオとして貸し出すほか、不定期で予約不要のワークショップも行っている。TABFの「ZINE’S MATE」にもみられるように、ZINEや小部数の出版物は今や隆盛を極めている。そんな時流にのってこの場所もまた、アートの街における重要拠点の一つとなっていくだろう。
美術館から駅へと向かう帰り道、「この街を歩くと、古いものから新しいものへのグラデーションが見えてくる」という〈smokebooks〉北澤さんの言葉を思い出す。深川資料館通りには、お弁当屋さんやおでん屋さん、昔ながらの居酒屋もあれば、〈smokebooks〉のような古書店や若い人が営む古着店、ベトナム料理店まである。
江戸風情を残しながら、常に新たな感性が行き交う街。アートの街の根底には、互いを受け入れ共存を選ぶ、懐の深さが垣間見える。

江戸時代の明暦の大火で多くの寺院が移転してきたことから、「深川寺町」とも呼ばれている。

東京都現代美術館のある木場公園は地元民の憩いの場。
開催中のTABFを横目にランニングする人も。
1.
smokebooks
住:東京都江東区三好3-9-6
営:11:00~17:00
休:月・木曜
@smokebooks_kiyosumishirakawa
夫とともにみのり台店と清澄白河店を営む〈smokebooks〉北澤さん。現代美術館の企画展に合わせて品揃えや棚づくりも変えているので、いつ訪れても新たな発見がある。毎年TABF帰りの人に何を買ったか聞くのを楽しみにしているそう。


2.
stoop
住:東京都江東区白河2-5-10
営:12:00~19:00
休:月~水曜 ※祝日の場合は営業
@gallery_stoop
家具はイタリアを主軸にヨーロッパのものが中心。互いのカルチャーを取り入れて楽しむ陸続きのヨーロッパのように、扱う家具もカテゴライズせず、国や年代を自然とミックスさせている。離れの2階の床には全面に瀬戸焼のタイルを用いるなど空間作りにも余念がない。


3.
STUDIO tuuli
住:東京都江東区石島8-4-102
営:平日13:00~20:00、休日10:00~20:00
※完全予約制
https://studiotuuli.com/studio/
リソグラフ印刷は13色のインクと14種類の用紙から選べ、それぞれの色の重なり方を色見本で事前にチェックできる。スタッフのつかないフリープランと、スタッフが制作をサポートしてくれるレクチャープランを用意(要予約)。

