日本最古の劇場である京都南座(京都市東山区)で、「イマーシブシアター」という最先端の演劇スタイルの公演「サクラヒメ」が上演されています。
歌舞伎の演目「桜姫東文章」をモチーフにした「サクラヒメ」は、和のテイストであふれている
1階客席を取り払ってフラットにした機能をふんだんに使って繰り広げられるパフォーマンスとお芝居
主役のサクラヒメには、元宝塚の娘役スター、純矢ちとせさんが扮し、素敵な歌声も聞かせてくれる
「サクラヒメ」の演出と脚本を担当するのは、ダークな世界観で独創的な舞台作品やダンス作品を次々に生み出してきた〝異形〟のダンスカンパニー「DAZZLE」(ダズル)。彼らは約2年半前、都内の廃病院を舞台にした日本で初めての本格的なイマーシブシアター「Touch the Dark」を上演して、注目を集めました。その後も東京ワンピースタワーでの「時の箱が開く時」や、京都・岡崎公園周辺を舞台にした「宵闇夜行」などのイマーシブ作品を続けて上演しました。
DAZZLEによって演じられた日本初の本格的イマーシブシアター「Touch the Dark」
平安神宮やロームシアターなど岡崎公園周辺を移動しながら、ダンスパフォーマンスを見せた「宵闇夜行」
イマーシブは、没入感という意味で、最近はゲームなどにも使われます。「イマーシブシアター」は、客席に座って鑑賞するのではなく、座席が取り払われ、演者に導かれながら自分の意思で会場内を動き回り、さまざまな場所で繰り広げられるパフォーマンスを体感するものです。
「Touch the Dark」は2017年の夏、今は取り壊された都内の廃病院をまるまる1棟使って上演されました
サクラヒメは、歌舞伎の演目「桜姫東文章」がモチーフになっています。意にそぐわない縁談から逃れるために恋人と心中したサクラヒメが花魁に生まれ変わって、陰陽師や義賊など5人の男の中から運命の相手を探し出す物語。主演のサクラヒメは、元宝塚娘役の純矢ちとせさんが、5人の男たちは、「EXILE」の世界さんや「MAGIC☆PRINCE」のリーダー、平野泰新さんらが演じています。
ラストシーンは満開の桜の花吹雪が会場を覆います
座席が取り払われた南座1階では、物語の展開に沿って同時多発的に繰り広げられるストリートダンスやアクロバット、タップダンス、日舞などさまざまなパフォーマンスを演者に近づいて楽しむことができます。また、2・3階席では1階で起きている出来事を上から俯瞰することができるだけでなく、最後に5人の中からサクラヒメの運命の男を投票で選ぶことができます。エンディングは少なくとも5通りになります。
客席を取り払った1階のさまざまな場所で繰り広げられるパフォーマンスを選んで鑑賞できます
1階フロアでは、障子の間仕切りによって生み出された空間のあちこちでさまざまな芝居が繰り広げられます
鑑賞した人たちは「何回も足を運んでいろいろなシーンを見たい」「1階席も2階席もどちらも見てみたい」「すべてのエンディングを見たい」などと話していました。
イマーシブシアターは、米・ニューヨークで上演されている「Sleep No More」に端を発し、DAZZLEは5年以上も前から、今回サクラヒメの脚本を担当したメンバーの飯塚浩一郎さんを中心に、イマーシブの導入を考えていたそうです。
演出を担当したメンバーの荒井信治さんと飯塚さんは「イマーシブシアターは一期一会が大きな魅力の一つ。同じ時間は二度となく、お客さまの数だけ異なる物語が生まれます。ここにいる全てのひとがこの作品の一部であり、あなただけが体験する物語の主人公でもあります。どうか五感のすべてを使ってお楽しみください」とコメントしています。
終演後出演者がステージに勢ぞろいした一瞬だけ写真を撮ることが許されます
(写真・文 田中幸美)