ぐるんぱのようちえん(福音館書店)

【絵本に再び出会う】成長を支える

コラム,

 絵本の読み手は成長とともに、その作品の中に新たな意味を見いだしていくことができます。大学生のCさんは、就職活動真っただ中のとき、子供の頃に読んだ「ぐるんぱのようちえん」(西内ミナミ・作 堀内誠一・絵)と再会しました。

 福音館書店から昭和40年に刊行された絵本です。無精で弱虫のゾウ「ぐるんぱ」は、仲間に後押しされて働きに出ます。ビスケット作りに始まり、皿、靴、ピアノ、自動車をはりきって作るのですが、できあがったものはいつも特大のものばかり。「もうけっこう」と断られてしまいます。ぐるんぱの「しょんぼり」は増え、また元の弱虫に戻りそうになったとき、12人の子だくさんの母親から、子供たちの面倒を見てほしいと頼まれます。ぐるんぱは作ったもので幼稚園を開きます。たくさんの子供たちの笑顔があふれ、ぐるんぱは自信をもって「ぼくはおおきなぞうだぞぅ」と歌うという物語です。
 幼い頃、自分もぐるんぱの幼稚園に通ってみたいと繰り返し読んだCさんがこの絵本に再会したのは、周りの友達は次々と就職が決まっていく中、自分は内定をもらえずにいたときでした。「ぐるんぱに向けられた『もうけっこう』の言葉に、今の自分を重ねて涙が出そうになった。そのつらさが痛いほどわかる」。Cさんはそう言いました。
 落ち込み、諦めかけていたCさんに絵本が支えとなったのです。「ぐるんぱのように、自分が必要とされる場がきっとあるはず。久しぶりに再会したぐるんぱに励まされ、勇気をもらえるなんて思いもしませんでした」と話しました。
 作者の西内さんも自分探しに悩んでいたときに、このお話を作ったといいます。Cさんは、悩み、苦しむ今だからこそ、作者のメッセージを受け取ることができたのでしょう。
 絵本は自宅の本棚に大切に保管されていたそうです。「私の大好きだった絵本を母は捨てないで残しておいてくれたのです。自分は一人じゃないんだと、何だか元気が出てきて、就活を頑張れる気がします」と、笑顔のCさんがそこにはいました。
 幼い頃に好きだった絵本を、もう一度手にしてみませんか。新たな出合いや発見があるかもしれません。
 (国立音楽大教授 林浩子)

2017年2月3日産経新聞掲載



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