平成14年に福音館書店から刊行された「しろねこしろちゃん」(森佐智子・文 MAYA MAXX・絵)は、子供にとって自分が大好きな親と似ていることに安心感や喜びを抱き、その感情経験が子供のアイデンティティーを育んでいくことを教えてくれます。
真っ黒なお母さんネコから、3匹の黒ネコと1匹の白ネコが生まれました。自分だけが白い毛並みであることに気づいた「しろちゃん」は黒くなりたくて泥や炭を体にこすりつけるのですが、すぐにお母さんになめられて白い毛に戻されてしまいます。ある日、しろちゃんは、大きくて真っ白いネコ―お父さんに会うのです。うれしそうにしろちゃんを見つめるお父さんより、しろちゃんはもっとうれしかったのです。
本の裏表紙には、家族6匹がそろった絵が描かれています。
4歳のKちゃんはこの絵本を読んでもらった後、すぐに先生のもとに行き、自分の頰のホクロを指さしながら「このホクロね、パパと同じなのよ」とうれしそうに話しました。Kちゃんの両親は、彼女が2歳のときに離婚し、Kちゃんにお父さんの記憶はありません。それにもかかわらず、Kちゃんは自分がお父さんと似ているところを知っていました。そして、絵本の中のしろちゃんと自分を重ね合わせ、父親の存在とその繫(つな)がりを喜んだのです。1人でKちゃんを育ててきたお母さんは、「若くして結婚し、夫婦は別れたけれど、彼と愛し合って、Kが望まれて生まれてきたのだということを伝えたかったのです。だから、Kが知りたいことは教えてきました」と話しました。
家族の在り方がより複雑になっていく今日、親と似ていること、あるいは親と似ていないことに悩む子供がいます。また、別れた配偶者に似てきたことを嫌がる親がいます。血の繫がりがあるか否かや、一緒に暮らしているか否かではなく、自分が自分であることの意味をこんな幼い子供でさえも確かめています。
絵本を通して垣間見られたKちゃんとお母さんの姿から、家族の在り方は変わっても大人は子供への責任を忘れてはならないことに気づかされるのです。(国立音楽大教授 林浩子)
2017年2月17日産経新聞掲載

