くだもの(福音館書店)

【絵本に再び出会う】「くだもの」自ら関わる

コラム,

 昭和54年に福音館書店より刊行された『くだもの』(平山和子・作)を読むとき、幼い子供自らが人や、ものに関わり、世界を広げていく姿を垣間見ることができます。

 スイカやリンゴなど身近な季節の果物が、本物かと思われるほど丸ごと鮮やかに描かれています。次のページには、それぞれの果物が並べられ切り分けられ「さあ どうぞ」の言葉とともに読み手に向かって差し出されています。

 生後10カ月の頃、Mちゃんは絵本の中のリンゴを見て「あっ、あっ」としきりに指さしました。Mちゃんのお母さんは「Mの好きなリンゴねぇ。おいしいねぇ」と応答しながらMちゃんの口に絵本の中のリンゴを運ぶまねをすると、Mちゃんはうれしそうにもぐもぐと食べるまねをし、口に手をあて〝おいしい〟ポーズをとりながら、繰り返し自分から絵本のリンゴに手を伸ばしていきました。

 サクランボの季節を迎えたとき、Mちゃんはまるで「この果物を知ってるよ」と言うように八百屋さんで得意げにサクランボを指さし、お母さんの顔を見ました。お母さんは、Mちゃんがまだ食べたことのないサクランボを見つけたことに驚きました。

 生後14カ月の頃、Mちゃんのお気に入りの時間は、1人で絵本をめくりながら果物を口に入れるひとときでした。Mちゃんのお母さんが「あー、おなかいっぱいになったね」と声をかけると、今度は絵本の中の果物を「どうじょ」と言いながらお母さんの口に運びました。

 「どうじょ」はこの頃のMちゃんのお気に入りの言葉になりました。友達のKちゃんが家に遊びに来ると、少しの間、2人で並んで絵本を見て一緒に果物を口に運ぶまねをしたり、「どうじょ」と言い合ったりしながら友達と関わることを楽しんでいました。

 絵本は子供に知識を与えたり、何かを教え込んだりする道具ではありません。もちろん、子供の反応には個人差がありますが、Mちゃんのような幼い時期でさえも、絵本をきっかけに自分の身の周りの世界に関心を持ち、自ら関わり、その世界を広げ分かろうとしていきます。そこには、自ら世界と関わりながら育とうとする学びの原点があります。

 そして、そのような営みを生み出す横には、Mちゃんの反応をともに味わい、驚きながら応答してくれる「人」がいるのです。(国立音楽大教授 林浩子)

2017年4月14日産経新聞掲載


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