©Yuriko Yamawaki 1998

【絵本に再び出会う】言葉を受け継ぐ

コラム,

 乳幼児期の言語体験は、家庭でのお父さんやお母さんの語りかけから始まり、その積み重ねの中で子供は言葉を受け継いでいきます。保育士のK先生は子供たちの〝おうちごっこ〟の中で、言葉が人との関係を作っていくことを痛感したと話してくれました。

 お母さん役の4歳児、T子ちゃんが「おい、メシできたぞ、食え」とぶっきらぼうに言って料理を出しました。テーブルに集まった子供たちは、互いに何となく気まずい雰囲気を感じた様子で黙って食べるまねをして、その後、〝おうちごっこ〟は続かなかったそうです。

 別の日、お母さん役のM子ちゃんが「どうぞ、めしあがれ」と言って料理を出しました。「いただきまーす」「おいしいねー」「お母さん、次は〇〇を作って」「はいはい、待っててね」と楽しい雰囲気の中で次々と言葉のやり取りが生まれ、〝おうちごっこ〟が続いていったそうです。子供たちは思わず応答したくなる心地よい言葉とそうではない言葉を聞き分けていたのです。

 昨今、学校でも社会でも求められるものの一つにコミュニケーション能力があります。人と関係を作っていく中で、言葉は重要な役割を果たします。それゆえ、大人は人との関係(それは他者だけでなく自分自身との関係も含みます)を生み出していける、豊かな言葉を子供に向けて語りかけていくことが大切なのですが、大人自身の言葉が豊かでないことも少なくありません。

 そんなとき、言葉の宝庫である良い絵本を子供に読み聞かせることで子供は豊かな言葉に出合い、それを受け継いでいくことができます。しかし、単に言葉を覚えれば人と関わっていけるのではなく、言葉にならない相手の表情やその場の雰囲気などを感じ取り、共有できることが重要です。まだ言葉を理解できない幼い時期から、絵本を通して読み手の言葉のリズムや抑揚からその人の心の様(さま)や醸し出す雰囲気を感じ取り、子供が「きゃっきゃっ」と笑うと「面白いねぇ」と読み手が受け止め返す―。そんな時を大好きな人と一緒に味わった経験こそが、その後の相手の表情や場の雰囲気を感じ取る力の芽生えとなっていくのです。

 そして、読み手の言葉をまねたり一緒に言ったりしながら、言葉のリズムのめりはりと意味がつながったとき、子供は言葉を理解していくのです。(国立音楽大教授 林浩子)

2017年4月28日産経新聞掲載



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