まんげつのよるまでまちなさい(ペンギン社)

【絵本に再び出会う】『まんげつのよるまでまちなさい』 成長を共に「待つ」

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 昭和53年にペンギン社から刊行された『まんげつのよるまでまちなさい』(マーガレット・ワイズ・ブラウン作、ガース・ウィリアムズ絵、松岡享子訳)は子供を育てる過程で「待つ」ことの意味を考えさせてくれる一冊です。

 あらいぐまのぼうやはまだ見たことのない夜の世界を見たいと繰り返しお母さんにせがみます。日に日に募るぼうやのまだ見ぬ世界への憧れをお母さんは優しく受け止め、その素晴らしさを言葉と歌で伝えるのですが、最後は決まって「まだよ。まんげつになるまで まちなさい」と応えるのです。

 ぼうやは待ちます。ある日のこと、ぼうやは大きくて温かいお母さんを見上げてきっぱりと言います。「いいかい、かあさん。ぼく、これから もりへ よるを みにいくからね。いいでしょ?」と。すると、お母さんは「さあ、いっといで!だって、こんやは―まんげつのよるだもの!」と、ぼうやを送り出すのです。

 自分が子供だったころ、世の中のことを知りたくて、やってみたくて「まだ?」「もういい?」と何度も口にしました。でも、そんな自分が親になると、今度は「まだ早い」「待ちなさい」と子供に言いました。

 訳者の松岡さんは「子どもたちに示される目標のときは、ほんの少し先から、うんと遠い先までさまざまですが、とにかく子どもたちは待たなければならないのです。(中略)子どもたちは、待っている間に、日に日に成長し、ときが満ちるころには、願ったものを与えられるにふさわしい自分に育っているものなのです」とあとがきに記しています。

 子供を待たせることは親の責任でもあります。と同時に、あらいぐまのお母さんのように待ち続ける子供の「今」に寄り添い、子供自らが〝(月のように)満ちるとき〟を子供の傍らで共に待つことが何よりも大切ではないでしょうか。

 お母さんはぼうやが待つ先の世界を、それはそれは楽しそうに語って聞かせます。だからこそ、子供は安心して「いくからね」と宣言し、親はその言葉を信じて「さあ、いっといで」と送り出すことができるのです。

 満月の夜に野原で遊ぶ子供たちの傍らにお母さんが描かれている最後のページの絵の意味を、さまざまに読み取ることができます。読者の皆様はどのようにお感じになるでしょうか。(国立音楽大教授 林浩子)

2017年7月21日産経新聞掲載



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