じごくのそうべえ(童心社)

【絵本に再び出会う】『じごくのそうべえ』 みんなで笑い転げる

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 私が幼稚園に勤務していた頃、受け持ったクラスごとに子供たちのお気に入りの絵本がありました。昭和53年に童心社から刊行された『じごくのそうべえ』(田島征彦作・絵)はその中の一冊です。

 物語の原作は、上方落語、桂米朝の「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」。綱渡りの最中に綱から落ちてしまった軽業師(かるわざし)のそうべえは、地獄に超特急で向かう火の車で、山伏のふっかい、歯抜き師のしかい、医者のちくあんと出会います。三途(さんず)の川を渡り、閻魔大王の前に連れて行かれた4人は地獄行きを命ぜられます。糞尿(ふんにょう)地獄、人呑鬼(じんどんき)の腹の中、熱湯の釜、針の山へと次々にほうり投げられるのですが、4人は知恵を働かせて地獄の鬼たちをてこずらせ、この世に送り返されてしまうというお話です。

 繰り返しクラスで楽しむ中で、絵本をきっかけに“そうべえごっこ”や“地獄絵巻作り”へと遊びが発展していきました。その学年の卒園式の後、保育室に戻った子供たちが最後の一冊に選んだのが『じごくのそうべえ』でした。子供にも私にも、涙と笑いの思い出の一冊になりました。

 小学校4年生になった彼らがわが家に遊びに来たとき、本棚でこの本を見つけ「先生、読んで」と私に差し出しました。読んでみると、あの頃と同じように笑い転げ、さらに、「あのとき、こうやったよな」「お前がこう言ったよな」と懐かしみ、笑い合いました。

 一昨年、大人になった彼らと再会し、グラスを片手に語り合った際も、彼らの幼稚園時代の思い出に『じごくのそうべえ』があることに驚かされました。

 それほどまでに子供たちを夢中にするものが、この絵本にはあるのでしょう。と同時に、クラスみんなで絵本を楽しみ味わうことの醍醐味(だいごみ)を子供たちが教えてくれるのです。(国立音楽大教授 林浩子)

2017年7月21日産経新聞掲載



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