©Yuriko Yamawaki 1998,2001,2011

【絵本に再び出会う】『いやいやえん』(下)子供が子供らしく生きる

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 私がこれまで出会ってきた子供たちに『いやいやえん』を読むと、子供たちは皆、主人公のしげるを面白がり、好きになりました。

 しかし、彼のような子供は大人にとって手がかかる、大人を困らせる問題児と呼ばれてしまうのかもしれません。世間から問題児と見なされると、当の子供よりも、親の方が「なぜ、周りと同じことができないの」「自分の育て方が悪いのか」と困惑しがちです。

 これに対し、作者の中川李枝子さんは著書『子どもはみんな問題児。』(平成27年、新潮社)でこう語っています。「どの子もみんなすばらしい問題児」「子どもらしい子どもは、ひとりひとり個性がはっきりしていて、自分丸出しで堂々と毎日を生きています。それで大人から見ると、世間の予想をはみ出す問題児かもしれません。だからこそ、かわいいのです」と。

 『いやいやえん』には、時代は移り変わっても変わらない子供の本質や、本当の子供の姿や世界が描かれています。それは、中川さんが傍観的に観察した子供の世界を描いたのではなく、子供とともにある暮らしの中で、子供の内側から子供の世界を再発見し、驚き、味わっているからでしょう。中川さんの作品には、子供たちから聞こえてくる声があふれています。

 中川さんは、子供たちの「代弁者」であると私は思うのです。子供の声や息遣いを間近に感じることができる親や、教育・保育関係者ら大人たちは今、子供たちの代弁者になっているでしょうか。子育てや教育に関するさまざまな政策が進められています。ですが、例えば待機児童問題では、安全で豊かな環境で保育や教育を受ける子供の権利よりも、親が子供を預け働く権利と保障ばかりが取り上げられ、そこに子供の声は聞こえてきません。

 前回紹介した中川さんと映画監督の宮崎駿さんの対談の最後に、中川さんは昭和26年制定の「児童憲章」の前文に触れました。「児童は、人として尊ばれる。児童は、社会の一員として重んぜられる。児童は、よい環境のなかで育てられる」。これらが保障されるとき、子供は自ら育っていくことができるのです。

 中川さんの作品の根底には、保母として、作家として、そして一人の人間として子供への深い愛情と信頼を感じることができます。

 『いやいやえん』刊行の翌昭和38年、中川さんの名作『ぐりとぐら』(大村百合子・絵、福音館書店)が生まれたのです。(国立音楽大教授 林浩子)

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福音館書店の『いやいやえん』(中川李枝子作、大村百合子絵)



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