昭和40年に福音館書店から刊行された土方久功さんの『ゆかいな さんぽ』は、何ともいえないおかしさとともに、子供のけんかのおおらかさを教えてくれる一冊です。
1匹のこぶたが散歩に出かけます。順々にあひる、とら、うさぎに出会い、皆で「ぶたぶた がおがお うぉお ぴょんぴょん」と歌いながら山の方へ歩いていきます。一方、山では、しじゅうからが順々に、すずめ、おながに出会います。皆で「つぴつぴ ちゅんちゅん じぇえ」「ちぺちぺ ちゅんちゅん じぇえ」と歌いながら山から下りてきます。
この2組が出くわし、互いにどちらの歌がうまいかということでけんかになります。わめき合い、鳴き声が渦巻くなか、あまりにやかましいので、皆は頭を抱えてちりぢりに逃げ出してしまいます。
子供たちは、白黒の線で描かれた動物たちの表情や、鳴き声の音やリズムを面白がります。特にけんかの場面は、読み手も口が回らなくなるほどですが、お祭りのような騒がしさに子供たちからは笑いが起こります。
それぞれの動物がぶつかり合い、思いっきり自分を主張した後、「やめろ」「ああおどろいた」「やりきれん」「やかましい」「たまらん たまらん」「もう こりごりだ」「やんなっちゃう」と、あっけらかんとけんかが終わるのです。それは、子供のけんかと重なります。エネルギーがあふれる子供のけんかには、ときに驚くほどの潔さがあります。
大人に仲裁され、反省を促され、仲直りを求められることのない、こういうけんかが、子供時代にはたくさんあったことを思いだします。そこでは感情を高揚させ、ぶつかり合いながらも、どこかけんかの終息を互いに図り合い、高揚した感情をコントロールする術(すべ)を覚えていきました。

ときに、大人の「いいかげんにしなさい」の一言に、けんかをした友達との妙な仲間意識を感じたものです。そして、その繰り返しのなかで、子供は他者とともに自分を知っていくのです。弱い者いじめでない限り、大人がそっと見守ることが必要な子供のけんかがあります。物語の最後に描かれたぶた君の表情からは、「それでも、ぼくたちの方がうまいに決まってる!」という声が聞こえてきそうです。
50年以上前に、彫刻家で民俗学者だった土方さんが65歳のときに描いたこの絵本からは、作者の子供に対する深い理解と信頼が読み取れるのです。(国立音楽大教授 林浩子)