昭和38年に福音館書店から刊行された『エルマーのぼうけん』(ルース・スタイルス・ガネット作、ルース・クリスマン・ガネット絵、渡辺茂男訳)は、長年、子供に人気の幼年童話。シリーズ3冊の第1作目で、121ページからなる冒険物語です。
9歳の男の子、エルマーは、年老いた猫から「どうぶつ島」にとらわれている竜の子の話を聞き、助けに向かいます。島には恐ろしい猛獣たちがいますが、エルマーはリュックサックの中に詰め込んだ輪ゴムやチューインガム、歯ブラシなどを使い、知恵と勇気で危機を乗り越えていきます。
幼稚園に勤務していた頃、年長組の秋には、クラスの皆で毎日少しずつこの物語を楽しみました。遠くの一点を見つめながら、あるいは、挿絵を見るとき以外は目をつむるなど、子供たちがお話に耳を傾けて聴き入るときの表情や姿はさまざまです。その頭や心の中にどんな情景が広がっているのだろうと、読み手の私もワクワクしながら読み進めたものです。
ある年、園庭の畑で芋(いも)掘りをした後、たまたま、私が芋のツルを雲梯(うんてい)にかけて干すと、それを見た子供たちが「ジャングルみたい」と言い出しました。4番目のお話「エルマー川を見つける」の挿絵を基に、個々の子供の中に広がった情景が友達とつながり共有したのです。それから、雲梯の周りを「どうぶつ島」、みかんの木がある園庭の端を「みかん島」に見立て、その間にフープを並べて「ぴょんぴょんこいわ」にしました。
子供たちは身近な物や場を使ったり作ったりしながら、物語の世界を友達と一緒に再現していきました。お話が進むにつれ、エルマー役、竜役、猛獣役に分かれて鬼ごっこが始まり、そのうち、お話の中の言葉を言い合うことで劇ごっこに変化していきました。
そして、子供が節をつけ、リズミカルに話す言葉にメロディーをつけるとオペレッタになり、『エルマーのぼうけん』は、その年の生活発表会の出し物の一つになりました。
友達と一緒に物語の世界に浸って楽しむ経験もまた、読書好きな子供を育んでいきます。(国立音楽大教授・林浩子)