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《映画でぶらぶら》ポーランドの巨匠が仕掛ける、見たことのない群像劇


 群像劇と呼ばれる映画がある。複数の登場人物たちのドラマが同時に展開する映画。その先駆けといわれるのが1932年製作の『グランド・ホテル』で、その他『ラブ・アクチュアリー』や『マグノリア』『バベル』など、ラブコメから人間ドラマまで様々ある。一見独立して見える物語たちはたいてい最後にはひとつにつながり、恋愛の成就や感動の再会といったドラマチックな瞬間を見せてくれる。

 スコリモフスキ監督の新作『イレブン・ミニッツ』もまた群像劇だ。都市を舞台に、十数人の登場人物たちの11分間の出来事が同時並行的に描かれる。ホテルの一室では、ふしぎな魅力の女優アニャと好色そうな映画監督がオーディションを行う。別の部屋では、登山家の男女があやしげなビデオを鑑賞中。街ではホットドッグ売りの男が屋台を出し、その横をアニャの夫が通り過ぎる。街のあちこちにいた登場人物たちがホテル周辺へ集まりだし、これぞ群像劇のパターンだと思った瞬間、突然何かが起こる。そこには、恋愛要素も感動的瞬間も、恐怖すらない。すべては一瞬で終わり、感情を挟み込む隙はない。残るのは驚愕と興奮だけだ。

 事が終われば、カメラはあっという間に街から遠ざかる。まるで、先ほどまで熱心に追っていた彼らの人生になど何も興味がないかのようだ。その冷徹さに、思わずぞくりとする。

 それは、観客にわざと謎を残すような意地悪さとは少し違う。映画を見るとき、私たちはつい納得のいく結末や謎解きを期待してしまう。でも本当は、この先に何が起こるかわからないまま夢中でスクリーンを見続けることこそ、映画を見る醍醐味だ。欲望を掻き立てる魅力的な登場人物たちと、どんな感情も遮断する衝撃的なラストシーン。それだけで映画はこんなにおもしろいのだと、本作を見てあらためて思う。
 
 群像劇といえば、台湾映画『恐怖分子』も思い出す。1980年代の台湾を舞台にした本作では、ひとりの少女の悪戯が、ウイルスのように周囲に影響を及ぼし、思いがけない悲劇を引き起こす。知らず知らずのうちに悪意を撒き散らす人間の恐ろしさを、無機質な台北の街が静かに飲み込む。都市を舞台にした独創的な群像劇として、ぜひ『イレブン・ミニッツ』と一緒に見てみたい。

ジャンキーなバイク便の男を演じるダヴィド・オグロドニクは、要注目のポーランド俳優


This Month Movie

『イレブン・ミニッツ』

ある都市に暮らす見知らぬ人々の間に起こる、午後5時から5時11分までの物語。映画監督の部屋を訪ねる女優と、嫉妬に燃える彼女の夫。後ろ暗い過去を持つホットドッグ売りの男。薬で幻覚を見るバイク便の男。いわくありげな人々のドラマが交差するなか、11分後、何かが起きる。ポーランドの実力派監督スコリモフスキによる衝撃のリアルタイムサスペンス。

ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:リチャード・ドーマー、パウリナ・ハプコ

http://mermaidfilms.co.jp/11minutes/

旧作もcheck!

©CENTRAL PICTURES CORPORATION


『恐怖分子』

台湾ニューシネマを牽けんいん引し2007年に亡くなった、映画作家エドワード・ヤンの出世作。一発の銃声から始まるミステリー群像劇。

監督:エドワード・ヤン
出演:コラ・ミャオ、リー・リーチュン
DVD&Blu-ray発売中 3800円(DVD)、4800円(BD)ハピネット

今月のはしごムービー

『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』

聖地ラサへと2400kmもの道のりを1年かけて歩く、チベット人たちの巡礼旅。実在の村人たちが演じる斬新なロードムービー

シアター・イメージフォーラムほかにて公開中。
監督:チャン・ヤン
出演:ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード


『ニュースの真相』

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2004年アメリカの老舗メディアCBSで起きたニュース捏造疑惑事件をもとにした本作。メディアの矜持を描く骨太ドラマ
TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。

監督:ジェームズ・ヴァンダービルト
出演:ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード


『太陽のめざめ』

© 2015 LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 2 CINÉMA - WILD BUNCH - RHÔNE ALPES CINÉMA – PICTANOVO

不良少年と、彼を見守る大人たちの十数年に渡る物語。ドヌーヴは少年の担当判事役。フランスの社会描写が実にリアル
シネスイッチ銀座ほかにて公開中。

監督:エマニュエル・ベルコ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ロッド・パラ


つきなが りえ

編集者・ライター。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆を手がける。編集人を務める雑誌『映画横丁』3号(ビールと映画特集)好評発売中!





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