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《映画でぶらぶら》まるで短編小説の主人公のような、一人のミュージシャンの孤独な人生


 まず思ったのは、まるでアメリカの短編小説のように、小ぶりで気の利いた映画だということ。主

な登場人物は、イーサン・ホーク演じるチェット・ベイカーと、彼が出演しようとした自伝映画の共演女優で恋人のジェーン、古い友人でプロデューサーのディック。チェットの元妻も登場するが、こちらはジェーン役の女優による一人二役。

 この映画を語るのに「今年一番の傑作」とか「涙が止まらない感動作」といった大仰な言葉は使いたくない。そもそも主人公への共感を求めるのは難しい。97分間の映画のなかで、チェットの音楽への熱も、恋人への愛情もいまいちつかみどころがない。だがそれが逆に、風刺とウィットに富んだ短編小説のような清々しさを感じさせる。

 アイルランドの作家フランク・オコナー曰く、長編小説と短編小説の大きな違いは主人公像にあるらしい。長編の主人公は自分が属する社会を強く意識していて読者が共感しやすく、短編の主人公は「社会の端っこをとぼとぼ歩いている」ような目立たない人物で共感しづらい(青山南『アメリカ短編小説興亡史』より)。黒人ミュージシャンが主流の当時のジャズ界で、実力よりルックスでちやほやされる白人ミュージシャンだと揶揄されるチェットも、社会の端っこをとぼとぼ歩くように、孤独にトランペットを吹き続けていた。

 なによりも驚くのがラストシーンだ。人生における決定的なある一瞬を、ジャズと共にさらりと描く。たしかにこの終わり方以外ありえない、と思わずため息が漏れた。その巧みさは、どこかフィッツジェラルドの短編小説(たとえば『バビロン再訪』)を思い出させる。そういえば、この作家も酒に溺れ、人生に疲れはてた人だった。

 本作はチェット・ベイカーの伝記映画とは少し違う。彼の実人生のある断片にスポットをあて、フィクションとしてつくられた作品だ。撮られなかった自伝映画のシーンと、過去・現在が混ざり合い、夢想的な雰囲気もある。でも見終わったあとは、チェットの歌声や演奏が聴きたくなるし、彼の恩人であるチャーリー・パーカーや、憧れのスター、マイルス・デイヴィスのことも知りたくなる。描かれるのは小さな物語でも、そこから次々に別のドラマが派生していく。その奇妙な広がりが、映画をさらに輝かせるのだ。

すっかり渋い顔になったイーサン・ホークだからこそ似合う、落ちぶれた中年男の哀愁

This Month Movie

ブルーに生まれついて

1950年代に一世を風靡したが、ドラッグに溺れ、そのトラブルから口に大けがを負ったトランペット奏者チェット・ベイカー。世間からも、かつての仲間からも見捨てられた彼を支えるのは、売れない女優のジェーンだけ。再起不能と言われた彼に、やがて一世一代のチャンスが訪れるが…。ウェストコースト・ジャズの立役者チェット・ベイカーの実人生をもとにした音楽映画。 
11月26日(土)よりBunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿ほかにて公開

監督:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク、カルメン・イジョゴ、カラム・キース・レニー

旧作もcheck!

バード

“バード”こと、アルトサックス奏者チャーリー・パーカーの生涯を、大のジャズ好きであるイーストウッドが映画化。チェット・ベイカーは、パーカーのツアーに同行したことが演奏家として大きな転機となった。

監督:クリント・イーストウッド
出演:フォレスト・ウィテカー、ダイアン・ベノーラ

DVD発売中 1429円
ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント

今月のはしごムービー

『エブリバディ・ウォンツ・サム!!世界はボクらの手の中に』

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1980年、野球推薦で入学した新入生ジェイクの最初の3日間。音楽とビールとパーティーと。とにかく最高の青春映画!

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。
監督:リチャード・リンクレイター
出演:ブレイク・ジェナー、ゾーイ・ドゥイッチ
http://everybodywantssome.jp/


『ジュリエッタ』

© El Deseo

スペインの巨匠アルモドバルの、新たな母と娘の物語。鮮やかな色彩のなか、驚くほど繊細で普遍的な親子の歴史が描かれる新宿ピカデリーほかにて公開中。

監督:ペドロ・アルモドバル
出演:エマ・スアレス、アドリアーナ・ウガルテ
http://julieta.jp/


『誰のせいでもない』

©2015 NEUE ROAD MOVIES MONTAUK PRODUCTIONS CANADA BAC FILMS PRODUCTION GÖTA FILM MER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

ある事故をきっかけにつながりあった人々。救済でも贖罪でもなく、ただ過ぎゆく12年の年月を見つめ続ける。3D版が特におすすめ

11月12日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開。
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ジェームズ・フランコ、シャルロット・ゲンズブール
http://www.transformer.co.jp/m/darenai/


つきなが・りえ

編集者・ライター。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆を手がける。『映画横丁』編集人。今月はいい映画が多すぎて選ぶのに苦労しました…





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