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《映画でぶらぶら》愛すべき変人たちが物語を紡ぎだす、パリが舞台の「長屋映画」


 最近、昔の日本映画をいろいろ見直していて、「長屋映画」というジャンルが成立するのでは、と思いついた。貧乏浪人が主人公の『人情紙風船』や、戦後の東京を舞台にした『長屋紳士録』など、日本映画には長屋に住む人々がよく登場する。彼らは友人でも家族でもないが、隣人として一定の距離を保ちながら暮らし、なにか一大事があれば団結して問題に立ち向かう。そこには笑いもあれば、思わぬ悲劇も起こりうる。一軒のアパートとその界隈に住む人々がドラマを織り成す『皆さま、ごきげんよう』もまた、パリを舞台にした「長屋映画」といえるかもしれない。

 本作の主役といえるのは、アパートの管理人と彼の悪友の人類学者だ。そこに、覗き見が趣味の警察署長やローラースケートを履いた少女強盗団、廃墟となった城に住む男爵とその家族、黙々と家を建てる男など、いっぷう変わった人々が次々に登場し、つながりあう。

 先日来日した監督が、「私が映画をつくるうえで興味があるのは、人と人の間で何が起こるか、ということだけだ」と会見で語っていたが、たしかにこの映画は、特定の誰かについての映画というよりも、誰かと誰かの間に生じる関係や出来事だけを描いた映画だ。

 彼/彼女が誰かと出会う。そこで初めて、私たちは、彼/彼女がどういう人間かを知る。つまり人間の職業やアイデンティティは、出会った人々によって決められるのだ。管理人の男は、ゴロツキの前では武器商人になり、子どもたちの前では博学な教師に変わる。男爵の娘だって、ホテルで警察署長と出会うと娼婦に早変わり。人の役割なんて、その時その時で変化する。誰かと誰かが出会い、それぞれの役割を発見する。物語はいつだってそこから生まれるのだ。

 画面に映されるのは一見平和な日常風景だが、実はそこかしこに犯罪や争いが蔓延している。街ゆく人々を華麗に襲う強盗団の少女たちもいれば、社会の規格からはみ出した人たちを追い出す国家権力の存在もある。貧乏人は家を追い出され、金持ちはプールで優雅に酒を飲む。かと思えば、突然穴に落っこちる権力者もいるのだから、何が起こるか予測がつかない。

 そんな無秩序さを笑い飛ばしながら、愛すべき「長屋」の住人たちは、今日もパリの街を縦横無尽に駆けていく。

映画のなかには、さまざまな組み合わせのカップルが登場し、それぞれの物語を紡いでいく

This Month Movie『皆さま、ごきげんよう

現代のパリ。アパートの管理人で武器商人の男と、その友人で骸骨を集める人類学者。彼らのまわりにはこれまたふしぎな隣人たちばかり。そんななか、街ではホームレスに対する一斉取り締まりが行われ…。グルジア(現ジョージア)出身の名匠イオセリアーニの5年ぶりの新作は、中世、近代、現代と三つの時代を舞台に、個性豊かな人々がくり広げるユーモアと風刺に満ちた群像劇。12月17日(土)より岩波ホールほかにて公開。

監督:オタール・イオセリアーニ
出演:リュファス、アミラン・アミラナシュヴィリ、マチュー・アマルリック
http://www.bitters.co.jp/gokigenyou/

旧作もcheck!

『人情紙風船』

1937年製作、貧乏長屋に住む人々を描いた時代劇。妻と二人で貧乏暮らしを余儀なくされている浪人・海野又十郎と、同じ長屋で暮らす、酒好きでお調子者の髪結い・新三。金策に困った又十郎は、新三が企てた悪巧みに手を貸すことになるが、それが思わぬ悲劇を呼ぶ…。

監督:山中貞雄
出演:中村翫右衛門、河原崎長十郎、山岸しづ江

DVD発売中 4500円
発売・販売元:東宝

今月のはしごムービー

『母の残像』

©MOTLYS – MEMENTO FILMS PRODUCTION – NIMBUS FILMS - ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved

著名な戦争写真家だった女性の死から3年。夫と息子たちが見た妻/母の姿とは? 死者の記憶と、遺された者たちの受容の物語

ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。
監督:ヨアキム・トリアー 出演:ジェシー・アイゼンバーグ
http://hahanozanzou.com/


『ヒッチコック/トリュフォー』

© COHEN MEDIA GROUP/ARTLINE FILMS/ARTE FRANCE 2015 ALL RIGHTS RESERVED.PHOTOS BY PHILIPPE HALSMAN/MAGNUM PHOTOS

映画好きには伝説ともいえる本『映画術ヒッチコック/トリュフォー』の制作風景、監督たちの声を集めたドキュメンタリー

新宿シネマカリテほかにて公開中。
監督:ケント・ジョーンズ 出演:マーティン・スコセッシ、ウェス・アンダーソン、黒沢清
http://hitchcocktruffaut-movie.com/


『ミス・シェパードをお手本に』

© 2015 Van Productions Limited, British Broadcasting Corporation and TriStar Pictures,Inc. All Rights Reserved.

劇作家アラン・ベネットの庭に住みついた謎の老婦人。隣人たちとの奇妙な交流劇は『皆さま~』とあわせて見ても楽しい

シネスイッチ銀座ほかにて公開中。
監督:ニコラス・ハイトナー 出演:マギー・スミス、アレックス・ジェニングス
http://www.missshepard.net/


つきなが・りえ

編集者・ライター。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆を手がける。『映画横丁』編集人。ワイン特集の『映画横丁』第2号もぜひご一読を





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