映画の価値は、いったいどこで決まるのだろう。ストーリーのよさ、俳優たちの演技、映像の美しさ。判断基準には様々な要素がある。でもときおり、そんな冷静な価値判断とは別に、どうしようもなく心を動かされる映画がある。冷静な判断などどこかに行ってしまい、ただ感情のままに「素晴らしかった!」と叫びたくなる。
『未来を花束にして』はまさにそういう映画だ。社会に生きる人間としての当然の権利を奪われていた女たちが、その権利を求めて闘う物語。約100年前の出来事を基にしているが、先のアメリカ大統領選然り、21世紀を生きる私たちにとってもあまりにリアルだ。
映画の原題『サフラジェット』は、イギリスで生まれた、戦闘的な女性参政権活動家を指す言葉。彼女たちは標語「言葉より行動を」を掲げ、郵便ポストや家屋を爆破し、刑務所ではハンストを行うなど、過激派ともいえる運動を推進した。映画では、多くの人々が「どうせ何も変わらないのに」と彼女たちを冷笑する。勇気を出し、声をあげる者たちが邪魔者扱いされ、社会から弾かれる様は、ひどく残酷だ。
彼女たちを苦しめるのは、悪辣な政府以上に、人々の無知や臆病さだ。モードの夫は悪人ではないが、自分の身を一番に守ろうとする臆病者。彼女たちを追い詰める鬼警部も、政府の言う「正しさ」しか見ようとしない愚か者だ。
もちろん運動に参加する女たちのなかにも、過激さについていけず脱落する者はいる。だが運動を続ける者たちは、去っていく者を咎め立てはしない。その体を抱きしめるだけだ。今にも「なぜ一緒に闘わないの?」という苛立ちの声が聞こえそうな瞬間、人々は沈黙し、カメラは静かに遠ざかる。
この映画はひとりの女が弱さを克服する話ではない。自分の弱さも、他人の臆病さも許し、それでも闘い続けることを選ぶ女の物語だ。石をガラスに投げつける女たちの勇気を讃える一方で、サフラジェットになれなかった女たちの姿もたしかに映し出す。だからこそ、すべての女性たちにこの映画を見てほしい。そして誰もがその歴史を知るべきだと思う。
ラストシーンは、人々がただ歩くだけの姿がいかに美しいか、ということを私たちに思い出させてくれる。沈黙のまま歩き続ける人々もまた闘士なのだ。

本作は、出演者たちだけでなく、監督、脚本家、製作者といったスタッフたちも女性陣でかためられている
This Month Movie『未来を花束にして』
まだ女性の投票権も親権も認められていなかった1912年のイギリス。女性参政権を求める運動が過熱するロンドンで、24歳のモードは幼少期から洗濯工場での過酷な労働に耐えてきた。やがて同僚の女性の影響で参政権運動へと関わりだすモードだが、警察の弾圧や世間からの偏見の目にさらされた夫は、息子を彼女から奪い去る…。史実を基にした、女たちの真の闘いの物語。1月27日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。
監督:サラ・ガヴロン
出演:キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープ
http://mirai-hanataba.com/
旧作もcheck!

『太陽は光り輝く』
歩く姿の感動といえばこの映画。南北戦争の40年後、ケンタッキーのある田舎街を舞台に老判事プリーストが巻き起こす人情劇。自らの再選を懸けた選挙当日、街中の人に疎まれたある女性の葬列に、ひとり参列した判事。彼の沈黙の歩みは、やがて街の人々の心を動かしていく。
監督:ジョン・フォード
出演:チャールズ・ウィニンジャー
DVD発売中 2800円
株式会社ブロードウェイ
今月のはしごムービー
『ミューズ・アカデミー』

©P.C. GUERIN & ORFEO FILMS
文学におけるミューズ(女神)の存在を描き出す、斬新でユーモラスな“授業映画”。J・L・ゲリン監督特集上映も同時開催
東京都写真美術館ホールにて1月29日(日)まで公開中。
監督:ホセ・ルイス・ゲリン
出演:ラファエレ・ピント
http://mermaidfilms.co.jp/muse/
『トッド・ソロンズの子犬物語』

© 2015WHIFFLE BALLER,LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
一匹の犬と様々な飼い主たちをめぐるブラックコメディ。どうしようもない人間たちの日常が、シニカルな笑いと共に描かれる
1月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中。
監督:トッド・ソロンズ
出演:ダニー・デヴィート、エレン・バースティン、グレタ・ガーウィグ
『パリ、恋人たちの影』
©2014 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS - CLOSE UP FILMS - ARTEFRANCE CINEMA
売れないドキュメンタリー映画監督と彼を支える妻。白黒のパリの街でくり広げられる、中年夫婦の愛をめぐるリアルなドラマ
1月21日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開。
監督:フィリップ・ガレル
出演:クロティルド・クロー、スタニスラス・メラール
つきなが・りえ
編集者・ライター。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、雑誌、映画パンフレットの編集・執筆を手がける。『映画横丁』編集人。今年こそ積ん読中の長編小説たちを読み終えたい
