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《映画でぶらぶら》数式を見事に操る女性たちの、思慮深く粘り強い闘い

COLUMN, Movie/TV series, CULTURE

 天才数学者と呼ばれる人たちは、しばしば映画の中に登場し、強烈な印象を残す。それは実在の人物がモデルであることが多い。『ビューティフル・マインド』のジョン・ナッシュ、『奇蹟がくれた数式』のシュリニヴァーサ・ラマヌジャン。彼らは見事な数式を披露するが、普通の観客はその数式の意味を理解できない。それでも彼らが天才だと確信できるのは、取り憑かれたようなスピードのためだ。指先から生まれる数式が画面を埋め尽くし、突然ぴたりと動きが止まる。その瞬間、観客は圧倒的な何かが生まれたのだと悟り、うっとりと見惚れてしまう。

 『ドリーム』の主人公キャサリンもまた天才数学者だ。彼女がNASAの研究所で黒板の前に立った瞬間、ものすごいスピードで数式が綴られ、見ている側は呆然と眺めるしかない。しかし彼女の才能の前に、「人種の壁」が立ちはだかる。そのために彼女の名前は長年、表に出ることはなかった。

 キャサリンにとって大事なのは、仕事をスムーズに進めることであり、当初は職場での差別と闘おうとしない。白人男性たちの使うコーヒーポットの使用を禁止されても、毎日、有色人種専用トイレへと走らなくてはいけなくても、黙々と仕事に従事する。ただし、好意を寄せる男性の女性蔑視の言葉には即座に抗議するけれど。

 やがて職場でのひどい差別の実態に、彼女は怒りの声をあげる。ここでは、黒人女性であるだけで自分の仕事をすることさえ許されないのか、と。それに対するケヴィン・コスナー演じる上司の反応が実にリアルだ。そこに悪意はない。問題は、誰ひとり差別の存在すら自覚していないことだ。

 仕事に対する正当な評価を得たい。その当然の権利が、理不尽な理由で奪われる。それは大昔の話とは言い切れない。ここで描かれる彼女たちの行動は慎ましいが、未来へと続く、粘り強い闘いだ。初の女性技術者になるためのメアリーの地道な闘いにも心打たれる。そして、黒人女性グループのボス的存在であるドロシーの、周囲の女性たちを守るためのしたたかな闘いも。

 こうした静かな闘士たちから目を離してはいけない。『ドリーム』は、ユーモアと興奮に満ちた宇宙映画であり、仕事ドラマだ。それは実に楽しいが、その根底にはとても思慮深く大きなテーマがある。

ロケットの軌道を計算するため、一心不乱に数式を書き続けるキャサリン。その姿のかっこよさに惚れ惚れする

This Month Movie『ドリーム』

  冷戦下、アメリカとソ連が熾烈な宇宙開発競争をくり広げていた1961年。NASAには、宇宙開発研究に必要な“計算”を行う頭脳明晰な黒人女性スタッフのグループがあった。人種差別・女性差別がはびこる社会で、類い稀なる才能でアメリカの宇宙飛行計画に多大な貢献をした、3人の女性数学者たち(キャサリン、ドロシー、メアリー)の知られざる闘いを描いた伝記ドラマ。

9月29日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。

監督:セオドア・メルフィ

出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ

旧作もcheck!

『奇跡がくれた数式』

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 遠くインドから届いた手紙に書かれた驚くべき発見。天才数学者ラマヌジャンと、彼を見出した英国人のハーディ教授の友情を描いた実話。

監督:マシュー・ブラウン
出演:デヴ・パテル、ジェレミー・アイアンズ

DVD発売中 3800円
発売元・販売元:株式会社KADOKAWA

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