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《映画でぶらぶら》美しい沈黙と慎み深さを湛えた、すばらしい法廷映画

COLUMN, Movie/TV series, CULTURE

 『否定と肯定』の主人公リップシュタットは、とても雄弁で快活な女性だ。ユダヤ人歴史学者としてアメリカの大学で教鞭をとる彼女は常に自信に満ち溢れ、どんな相手にもひるまない。そんな彼女が、イギリスの歴史学者アーヴィングから名誉毀損で訴えられる。著書の中で、彼が主張する「ホロコースト否定論」を嘲笑した、というのがその理由。そこで彼女は、いかに自分が正しいかを主張すべく、優秀な弁護団を雇い、ロンドンの法廷へと挑むことになる。

 フェイクニュースや差別主義者による罵詈雑言がネットやテレビで飛び交う現在、この物語は単なる過去の出来事には思えない。ホロコーストは存在しなかった、すべてはユダヤ人の陰謀だとするアーヴィングの説は、実に馬鹿げていると誰もが思う。だがこの子供じみた否定論がメディアをにぎわし、知らぬ間に支持者を増やしていく。そのリアルさに思わずぞっとする。

 映画の観客は、レイチェル・ワイズ演じる頭脳明晰な女性教授とエリート弁護士たちが、巧みな戦略で狂人めいた否定論者を叩きのめす姿を期待する。だが驚くことに、弁護団はリップシュタットには一切証言をさせないと決め、さらにユダヤ人生存者の証言をも禁じてしまう。

 弁護団の戦略はリップシュタットを苛立たせ、同様に、派手な法廷ドラマを期待する観客をも戸惑わせる。なぜ主役であるはずの彼女が沈黙を強いられるのか? なぜ弁護人たちは、相手を挑発し、傍聴人の涙を誘わないのか?

 けれどこの静かな戦いを見守るうち、主人公も、観客も、弁護団の作戦の意図を理解していく。裁判は見世物ではなく、正しさを証明する場所だ。弁護人や証言者のスタンドプレイは必要ない。それを理解したとき、主人公は、自らの言葉と良心を、信頼できる仲間に託そうと決意する。チームで戦うとは、そういうことだ。

 歴史的にも明らかな事実を否定する者が現れたとき、私たちはどうするべきなのか。大事なのは、「否定」と「肯定」を同列に扱わないことだ。「どちらの見方もありうる」「それぞれ考え方が違うだけだ」という意見こそ、ときにとても恐ろしいのだから。

 『否定と肯定』は一見地味にも思えるが、美しい沈黙と慎み深さを湛えた、すばらしい法廷映画だ。

素晴らしい俳優陣が集まった本作、ティモシー・スポール演じるアーヴィング博士の怪演ぶりも見事

This Month Movie『否定と肯定』

 デタラメな「ホロコースト否定論」を主張する歴史学者アーヴィングを、自著の中で真っ向から批判した歴史学者のデボラ・E・リップシュタット。アーヴィングから訴訟を起こされた彼女は、ロンドンの法廷で「ホロコースト否定論」の間違いを証明するよう求められ、有能な弁護士チームと共に前代未聞の裁判に立ち向かうが…。2000年に実際に行われた裁判をもとにした、緊迫感溢れる法廷ドラマ。

TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中。

監督:ミック・ジャクソン
出演:レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン

旧作もcheck!

『レインメーカー』

TM & Copyright (C) 1997 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. TM, (R)& Copyright (C) 2017 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

 熱き理想を胸に掲げる若き弁護士ルーディが、虐げられた弱者のために働きながら自らも成長していく青春ドラマ。

監督:フランシス・フォード・コッポラ
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Blu-ray発売中 1886円
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