© 2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

《映画でぶらぶら》辺境の地で生きる者たちの物語が、世界の真理をあらわにする


 映画の物語はとても暗い。保留地“ウインド・リバー”の深い雪のなか、ネイティブ・アメリカンの少女ナタリーの死体が発見される。死因は、裸足で厳寒の雪原を走り続けたことによる肺の破裂。その夜、彼女に何が起こったのか?真相究明のためにやってきた新米FBI捜査官のジェーンは、FBIの応援を呼べないと知り、第一発見者のコリーに捜査の協力を依頼する。野生動物の駆逐を仕事にしているコリーは、独自の嗅覚で事件を追い求める。

 捜査が進むなかで、保留地の問題が浮き彫りになる。国から勝手に押し込められたこの地で、先住民たちの多くが貧困に苦しみ、若者はドラッグや犯罪に手を染める。実際に、多くの保留地では、毎年若い女性の失踪事件が多数起こりながら、捜査どころか統計すら取られていないという。本作は、この痛ましい事実をもとにつくられた。

 事件に対しどこか冷めた反応しか示さない保留地の人々に、ジェーンは苛立つ。だが彼女はまだ何も知らない。自分の尺度でしか世界を見ていない。ジェーンは、私たち観客の分身だ。やがて彼女は、つまり私たちは、雪の下に隠された陰惨な現実を目にする。そしてコリーが抱える心の闇に気づく。

 ときおり、映画を通して、アメリカという国が抱える闇を体験させられる。ニューヨーク州の最北端の町での白人女性とモホーク族の女性との小さな犯罪劇を描いた『フローズン・リバー』。ミズーリ州南部の閉鎖的な町で行方不明の父を探す少女が主人公の『ウィンターズ・ボーン』。そして本作の監督が脚本を手がけた、アメリカとメキシコの国境での麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』。

 それらはどれも、辺境の地で生きる者たちの映画だ。法も正義も役に立たない場所で、彼らにできるのは、ただ生き残ることだけ。コリーが、ナタリーの父に語る言葉が胸を打つ。「悲しみも絶望感もすべて覚えておけ。そしてただ生きるんだ」。

 これは、大作アクション映画でも、涙を誘う感動ストーリーでもない。けれど、こうした小さく陰惨な物語こそ、ときに世界の真理をあらわにする。世界から忘れられた人々の存在を、正義の届かない場所の存在を、見る者に突きつける。そんな映画に、私はどうしようもなく惹かれてしまう。

ジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンの硬質な演技も見事

This Month Movie『ウインド・リバー』 

 アメリカ中西部ワイオミング州、ネイティブ・アメリカンの保留地“ウインド・リバー”。ある日、野生生物局の白人ハンター、コリーは、雪原で凍死した少女の死体を発見する。新米FBI捜査官ジェーンはコリーの協力を得て事件の真相を探るが、厳しい気候と保留地の特殊な事情に戸惑う。捜査が進み、やがて隠されていた痛ましい事実が浮かび上がる。『ボーダーライン』の脚本家の初監督作。7月27日(金)より、角川シネマ有楽町ほかにて公開。

監督:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン

 

旧作もcheck!

『ウィンターズ・ボーン』

© 2010 Winter's Bone Productions LLC. All Rights Reserved.

 独自の掟に支配された閉鎖的な村で、行方不明の父を探す17歳の少女。彼女の孤独な闘いに心打たれる。

監督:デブラ・グラニック 
出演:ジェニファー・ローレンス
Blu-ray:1800円+税/DVD:1200円+税
発売元:ブロードメディア・スタジオ/ハピネット
販売元:ハピネット

NEXT: 今月のはしごムービー





この記事をシェアする

LATEST POSTS