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《映画でぶらぶら》入れ子細工の中から浮かび上がる、ひとりの歌手の幻影と実像


 実在した人物の一生を映画化する。そこには多くの問題が降りかかる。モデルとなる人物と演じる俳優が似ているか。実際に起きた出来事にどこまで忠実か。こうした諸問題を解決するために、映画は様々な工夫を施す。

 一昨年に公開された『ブルーに生まれついて』は、大胆な手法を用いた伝記映画だった。トランペット奏者のチェット・ベイカーと恋人との間に起きた出来事を描くが、実はその恋人とは、映画だけの架空の人物。すべてが嘘ではないが、彼の人生にはこんなドラマがあったかも、という視点で描かれた物語なのだ。劇中、未完に終わったベイカーの自伝映画の再現映像が挿入されるのも、おもしろい。

 『バルバラ〜セーヌの黒いバラ〜』は、誰かの人生を描くとはどういうことか、という問いを、改めて私たちに投げかける。バルバラとは、50年代からフランスで活躍したシャンソン歌手の名前だが、いわゆる伝記映画ではない。現代において、バルバラの伝記映画をつくろうとする者たちの物語だ。

 主人公は、バルバラ役を演じる女優のブリジットと映画監督のイヴ。いわゆる映画内映画であり、この監督役を本作の監督であるマチュー・アマルリック自身が演じている。まるで入れ子細工のような構成からも、これが普通の伝記映画ではないのがよくわかる。

 バルバラに魅入られた女優ブリジットと監督イヴ。ブリジットは、バルバラの映像を見ながら、その歌声やパフォーマンスを自分のものにしようとする。一方、かつて歌手本人と会ったことのあるイヴの情熱は、ときに監督の領域を超え、周囲の人々を戸惑わせる。

 実のところ、映画を見ても、バルバラの人生はよくわからない。家族関係も、恋愛関係も、すべては謎のまま。だが、彼女に魅了されたふたりの映画人の試行錯誤、そして本人の音楽や映像の断片を通して、徐々にバルバラの姿が浮かび上がる。果たしてそれは、幻影か実像か。

 ひとりの人間の生きた時間を記録するには、映画の持つ時間は短すぎる。その人生と真摯に向かいあおうとすれば、人は、どこまでもその深みにはまっていく。それは、怖くもあり、たまらなく魅力的な誘惑でもある。映画『バルバラ』は、そんな危険な誘惑を、見る者に仕掛けてくる。

metro1811_eiga_inner01.jpgブリジット/バルバラ役を演じるジャンヌ・バリバールの見事な歌声と、豪奢な衣装も見どころ

This Month Movie『バルバラ〜セーヌの黒いバラ〜』

 戦後、フランスで活躍したシャンソン歌手バルバラ。ユダヤ系の家庭に生まれた彼女は、圧倒的な歌声と個性的なビジュアルで、伝説的な存在になった。そして現代、映画監督イヴと主演女優ブリジットが、バルバラの生涯を映画化しようとしている。この映画製作を通して、バルバラの秘められた人生と、ブリジットたちの生きる時間が、奇妙に交差していく。11月16日(金)よりBunkamura ル・シネマほかにて公開。

監督:マチュー・アマルリック
出演:ジャンヌ・バリバール、マチュー・アマルリック


旧作もcheck!

『ブルーに生まれついて』

metro1811_eiga_inner04.jpg©2015 BTB Blue Productions Ltd / BTBB Productions SPV Limited. ALL RIGHTS RESERVED.

 50年代のジャズシーンを代表するチェット・ベイカーの波乱の人生を、フィクションを交えて描いた作品。ラストシーンの美しさは必見。

監督:ロバート・バドロー
出演:イーサン・ホーク

Blu-ray:4700円
DVD:3800円
販売・発売元:ポニーキャニオン

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