近年、ファッションデザイナーの活動を追ったファッション・ドキュメンタリーが数多く発表されている。華やかな衣服たちとともに、それらをつくり出した者たちの活動を記録した映像は、多くの人の目を楽しませてくれる。
でも『We Marg ielaマルジェラと私たち』には、楽しむよりもまず圧倒された。それは、静かで、暗く、けれど確固とした信念に貫かれた映画だった。映画が描くのは、「メゾン マルタンマルジェラ」の約20年間の物語。アントワープでファッションを学んだマルタン・マルジェラは、1988年、ジェニー・メイレンスとブランドを立ち上げる。だが2002年にビジネス面を仕切っていたジェニーが引退し、09年、マルタンも突然の引退を遂げる。
マスコミに自分の姿を晒すことを拒否し、「私」ではなく、「私たち」という一人称で、ブランドについて語り続けたマルタンは、存在自体がどこか伝説化している。映画は、天才デザイナーの謎を解くことはしない。マルタン本人は不在のまま、ジェニーの語りの声と、ともにブランドをつくりあげたチームの面々の証言によって、その歴史が紡がれていく。
パリの小さなアパートの一室で立ち上げられた事務所で、チームの誰もが、ただ理想のために働いていた。有名モデルの起用や派手な広告を拒否し、常に革新的なデザインで、ファッションとは何かを問い続ける。「マルジェラとは、“私たち”チーム全員のこと」。平等性のもとに集った、理想に燃える革命家たちが、ブランドのイメージをつくりあげる。
だが、終わりはいつかやってくる。それは当然のことだ。ファッションは、おそろしく巨大な商業の世界だから。ブランドが売却され、デザイナーが交代し、彼らの運動は、一つの区切りを迎える。
かつての仲間たちのなかには、すでに業界を立ち去った者もいれば、別のかたちで闘い続けている者もいる。彼らの顔や声には、「これは“私たち”の物語だ」という誇りが浮かんでいる。
物語が終わりを告げても、闘いの意味は失われない。20年間の歴史と、多くの作品はたしかにここに残されている。これは悲しい終わりなんかじゃないと、映画は、美しい空白と沈黙のなかで、静かに、強く宣言する。

“We=私たち”という一人称でつながる、「メゾン マルタン マルジェラ」の元チームメイトたち。彼らはみな、真っ白なユニフォームを着て、働き続けた
This Month Movie『We Margiela マルジェラと私たち』
1988年、ファッションブランド「メゾン マルタン マルジェラ」を創設したデザイナーのマルタン・マルジェラ。“反モード”を掲げ、既存のデザインにはないユニークな作品を発表し、メディアには一切顔を見せない彼は、2009年、突如ファッション業界を引退する。これは、謎に包まれた異端のデザイナーとその仲間たちの、約20年間の歩みを追ったドキュメンタリー。Bunkamuraル・シネマほかにて公開中。
監督:メンナ・ラウラ・メイール
出演:ジェニー・メイレンス(声のみ出演)、ディアナ・フェレッティ・ヴェローニ
旧作もcheck!
『ドリス・ヴァン・ノッテン』
マルタン・マルジェラと同じ、アントワープ王立芸術学院出身のデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンの活動を追ったドキュメンタリー。

©2016 Reiner HolxemerFilm-RTBF-Aminata bvba-BR-ARTE
監督:ライナー・ホルツェマー
DVD:3800円
発売・販売:ニューセレクト