スパイク・リーは、常に、黒人による黒人たちのための映画をつくり続けてきた。新作『ブラック・クランズマン』も、黒人への差別問題をテーマにした映画。1979年、コロラド州警察の黒人刑事ロンは、驚くべき計画を思いつく。それは、白人至上主義団体KKKへの潜入捜査。黒人のロンが電話でKKKメンバーとやりとりをし、実際の集まりには、同僚の白人刑事フリップが出向く。人種の違う二人の刑事によって、白人男性“ロン”を演じるわけだ。
驚くことに、これは実話に基づいた物語。映画は、テンポよく、奇想天外な作戦を推し進めていく。ロンは、言葉巧みにKKKメンバーらを懐柔し、実際に潜入捜査をするフリップに指示を出す。やがてKKKによるテロ計画が浮かび上がるが、ロン=フリップの正体にも目をつけられてしまう。
潜入捜査官であるロン自身は、自分が何者なのか、どこに属するのかをうまく定義できない。警察内で唯一の黒人である彼は、一緒に捜査をする仲間たちとも、どこか距離がある。捜査中に知り合ったパトリスに好意を抱くが、彼女には、刑事であることを明かせない。黒人解放組織ブラックパンサー党の幹部のパトリスにとって、警察は、自分たちを不当に逮捕し、痛めつける敵でしかないからだ。
『ブラック・クランズマン』は、同時期に公開される『グリーンブック』の物語と、よく似ている。どちらも、黒人と白人が手を組み差別と立ち向かう過程を、ほどよくエンタメに仕上げた作品。白人の視点から描かれた後者は、心地よい笑いと感動を見る者に与えてくれる。だが、黒人ロンの視点が導く『ブラック・クランズマン』は、私たちを安心させてはくれない。
黒人たちを殺せ、と叫ぶKKKメンバーたちの言動は、完全に常軌を逸している。その様子はまるでホラー映画のように、私たちを震え上がらせる。ロンたちが彼らをまんまと騙すさまは愉快だが、その醜悪さを、笑いで覆い隠すのは難しい。
果たしてこれは痛快なコメディ映画なのか?それとも、現在も続く人種差別問題を提起する社会派映画なのか?答えはきっとその両方。観客は、恐怖を感じながら笑い転げ、次の瞬間、怒りに駆られる。そのめまぐるしい繰り返しが、不思議な高揚感をつくりあげる。
This Month Movie『ブラック・クランズマン』
1979年、コロラド州。ロンは街で唯一の黒人刑事として採用される。ロンは、白人至上主義を掲げる過激派団体KKKにどうにかして潜入し、悪事を暴こうと計画。ロンが電話でKKK幹部に取り入り、仲間の白人刑事フリップがロンの名前で団体に潜り込む。はたして型破りな二人の潜入捜査の行方は? 実話をもとにスパイク・リーが映画化した問題作。
3月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
監督:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー
旧作もcheck!
『ドゥ・ザ・ライト・シング』
スパイク・リーの名を一躍有名にした衝撃作。ある夏の日、一軒のピザ屋をきっかけに起きた人種間をめぐる諍いが、やがて暴動へと発展していく。
監督:スパイク・リー
Blu-ray:1886円
DVD:1429円
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント