画面に広がる、温かく、だがどこかくすんだ色合いにまず惹かれた。『さらば愛しきアウトロー』の舞台は1980年代初頭のアメリカ。昨年『ア・ゴースト・ストーリー』で話題を呼んだデヴィッド・ロウリー監督は、本作に、70年代の映画へのオマージュをこめたという。過去の映画たち、そしてロバート・レッドフォード自身の長い俳優人生への、敬愛の念でもあるのだろう。それは郷愁の念とは少し違う。もっと軽妙で、ユーモアとしゃれっ気に満ちた何かだ。
R・レッドフォードが演じるのは、初老の銀行強盗フォレスト・タッカー。彼の手口は、銀行窓口でにっこり微笑み、従業員にちらりと銃を見せるだけ。誰も傷つけずに金を奪う„黄昏ギャング“のニュースは、街の人々に、驚きと、ちょっとした楽しみを与えてくれる。
車で旅をしながら次々に銀行を襲うタッカーは、これまで16回の脱獄と銀行強盗をくり返してきた根っからのアウトロー。そんな彼も74歳となり、仲間との最後の大仕事を計画していた。その一方で、偶然出会った女性ジュエルと恋に落ち、素性を隠したまま、彼女との逢瀬を続けている。
タッカーは、謎に包まれた人物だ。ヒーローでもないし、希代の大泥棒でもない。誰も傷つけずに素早く金を盗みだすさまは華麗だが、目を見張るほどの技ではない。盗んだ金を街の人々に渡すような、いわゆる義賊的な人物でもない。それなのに、誰もが彼に夢中になる。彼に恋したジュエルはもちろん、事件を追う若き刑事ジョン・ハントも、彼に魅せられた一人だ。
それは、タッカーが常にたたえる微笑みの力かもしれない。自分の置かれた状況を心から楽しむかのような、幸福そうな微笑み。そんな彼の顔にも、彼が歩んできた長い年月のしるしが刻まれている。カメラは、それを隠すことなく、むしろ、いとおしむように、しっかりと映し出す。
『さらば愛しきアウトロー』は、フォレスト・タッカーという実在した人物の物語であると同時に、彼と出会ってしまった者たちの物語でもある。彼の微笑みを目にした者はみな、どこか諦めに似た笑いを浮かべることになる。そして私たち観客もまた、ふと微笑まずにはいられない。彼の放つ不思議な幸福さに、どうしようもなく魅せられてしまうから。
This Month Movie『さらば愛しきアウトロー』
1980年代初頭のアメリカ。刑事ジョン・ハントは、身なりのいい老人が颯爽と金を盗んでいく奇妙な銀行強盗事件を捜査中。その犯人は74歳のフォレスト・タッカー。事件を追ううち、タッカーの人柄に惹かれていくハント。一方、牧場で暮らす女性ジュエルと恋に落ちたタッカーは、仲間と最後の大強盗を計画する。ロバート・レッドフォードの俳優引退作。
7月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイセク
旧作もcheck!
『断絶』
『さらば愛しきアウトロー』をつくる上でロウリー監督が参考にしたという1971年製作の傑作ロードムーヴィー。
© 1971 Universal Pictures and Michael Laughlin Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
監督:モンテ・ヘルマン
ブルーレイ:2500円
DVD:1900円
発売・販売元:キングレコード