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美しくゴージャスな女たちの、悲しく憐れな風刺ドラマ《映画でぶらぶら》


 美しくゴージャスな女たち。誰もがみな、高級なドレスや靴を身につけ、頭のてっぺんからつま先まで、誰かの手によって完璧に仕立てられる。流行最先端のバッグを買い、何台もの車を乗り回し、派手なパーティーを開く。彼女たちは、ただ美しくあるためにだけ存在する。その横には、常に裕福で権力を持った夫が鎮座する。

 これは、そんな女たちの物語。舞台は1982年のメキシコシティ。だが、画面に映るのは特殊な世界だ。高級住宅街にある豪邸、セレブ限定のテニスクラブ、ヨーロッパからの輸入品が揃う高級百貨店。どの場所もまるで絵に描いたようにきれいで、白々しく冷たい空気に覆われている。

 ソフィアは、この完璧な王国で女王として君臨している。自分を「メキシコ人」とは区別し、周囲の女を格付けする。この世界では、家柄がよく、貞淑であることも重要だ。だから新入りのアナが気に食わない。どんなに金持ちでも、下品な成り上がり女は認めない、というわけだ。

 自分はこの王国で一生安心して暮らすのだと信じきっているソフィア。だが永遠に続く王国など存在しない。メキシコに未曾有の経済危機が迫ると、夫の会社も見る見る経営が悪化し、彼女は、自分がすべてを失いつつあることを知る。豪奢な家も、ドレスも、親切な使用人も、自分を取り囲んでいた友人も、すべては夫の経済力があったからこそ。美しく着飾れない女など、ここでは生きる価値がないのだ。

 どんなに化粧を塗りたくっても、ソフィアの顔には、年を重ねた証しがしっかりと刻まれている。でもその内面は、現実を直視できない愚かな少女。ありえたかもしれない恋を妄想し、夢の世界に生きている。彼女が生きる強さを身につけないまま年をとってしまったのは、そもそも女には、夫に従属して生きる道しかなかったからだ。夫に妻を養う力がなくなればどうするのか。逃げる力は、とっくに奪われているのに。

 ただ美しい人形として存在する女。彼女は、イプセン『人形の家』のノラのようにはなれなかった。監督の視線に、ソフィアを蔑み、嘲る様子はない。彼女を憐れみながら、女の愚かさを、この社会がつくりあげたものとして告発する。ソフィアはこの社会の偶像なのだ。

metro209-movie-01.jpg80年代の雰囲気を再現した、豪華な装飾やインテリアも見どころ

This Month Movie『グッド・ワイフ』

 1982年、メキシコシティの高級住宅街。実業家の夫と3人の子供と豪邸で暮らすソフィアは、セレブ妻たちの間で、女王のように君臨していた。だが、メキシコ全土を襲う経済危機により、ソフィアの完璧な世界にも亀裂が生じ始める。新鋭女性監督が80年代のメキシコを舞台につくり上げた女性映画。風刺のきいた物語と美しい映像が、見事に融合する。

YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中。 
監督:アレハンドラ・マルケス・アベヤ
出演:イルセ・サラス、カサンドラ・シアンゲロッティ


旧作もcheck!

『ブルージャスミン』

 ある日突然、裕福な夫と財産をすべて失った女。妹のもとへ身を寄せ、人生をやり直そうとするが、富と名声への執着が、彼女の精神を徐々に蝕んでいく。

metro209-movie-05.jpg© 2013 GRAVIER PRODUCTIONS,INC.

監督:ウディ・アレン
Blu-ray 4700円
発売元・販売元:株式会社 KADOKAWA

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