ミア・ハンセン=ラブの映画を見ると、いつも時間の流れに思いを馳せてしまう。『あの夏の子供たち』では、父を亡くした娘たちの喪の作業と再生のときが、『EDEN/エデン』では、90年代のクラブシーンを生きた青年の青春とその後が描かれたように、彼女はずっと、残酷に過ぎ去る時間と、その先に現れる未来への予感を映しつづけてきた。
最新作『それでも私は生きていく』の主人公サンドラもまた、去りゆく時間の中で、忙しく毎日を過ごしている。五年前に夫を亡くし、通訳の仕事をしながらひとりで娘のリンを育てる彼女は、近くに住む父ゲオルグの面倒も見ている。哲学教師だったゲオルグは、本をこよなく愛し、自分の思考を明晰に言葉にする人だったが、いまでは病気により視力と記憶を失いかけていた。
ある日サンドラは、旧友のクレマンと偶然再会し、またたくまに恋に落ちる。ただし既婚者のクレマンとの関係は順調にはいかない。夏から冬へと季節が移るなか、二人の関係は進展と後退をくりかえす。またゲオルグの症状は日に日に悪化し、介護施設を転々とすることに。自分の力ではどうにもならない事態ばかりが続き、サンドラの心は徐々に引き裂かれていく。
劇中、サンドラが発するある言葉にハッと胸を衝かれた。父が長年暮らしたアパートの部屋で処分する本を選びながら、彼女はこんなことを言う。「本棚を見れば、その人の人生が見えてくる」。どんな本を読み、所有していたかによって、彼/彼女が何を考えどう生きたかが見えてくる、というわけだ。そしてまた、誰かと人生を共にするとは、ひとつの本棚で本を共有することでもある。そういえば『未来よ こんにちは』では、別れた夫が家の本棚から本をごっそり持ち去ることで、夫婦の決定的な別れが描写されていた。
時間の流れはいつも残酷だ。ゲオルグが長い時間をかけて築いた本棚は解体され、もう元には戻らない。けれど彼の家族やかつての教え子たちが本を持ち帰り、それぞれに新しい本棚=人生を生み出していく。誰も、時間の経過を止めることはできない。でも、時の流れの中で見えてくるもの、新たに生まれるものがある。そうして、まばゆい光が差し込んでくる。

レア・セドゥとメルヴィル・プポーの共演も見どころのひとつ。
This Month Movie
『それでも私は生きていく』
夫の死後、通訳の仕事をしながら、パリで8歳の娘を育てているサンドラ。彼女の父ゲオルグは、哲学教師として働いていたが、いまでは視力と記憶を徐々に失いつつある。そんなある日、旧友のクレマンと再会したサンドラは、急速に彼に惹かれていく。数年ぶりの恋と父の介護との間で走り回りながら、彼女の人生は少しずつ前へと進んでいく。
新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほかにて公開中。
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー
旧作もcheck!
『未来よ こんにちは』

©2016 CG Cinéma-Arte France Cinéma-DetailFilm-Rhône-Alpes Cinéma
長年連れ添った夫に突然離婚を切り出されたナタリー(イザベル・ユペール)。彼女の新しい人生がゆっくりと始まっていく様子を描いた、美しい人生讃歌。
監督:ミア・ハンセン=ラブ
U-NEXTで配信中