コイに次いで描く機会の多いゾウを描くキーヤン。「大きな動物は心が優しいからひかれる」と話します

〝吉相〟に向かって飛ぶ36頭のゾウ 絵師・木村英輝が横浜で壁画制作


 京都を拠点に活躍する壁画絵師のキーヤンこと木村英輝さんは、大胆なデザインと金や銀を配した派手な色合い、人を引きつける独特の装飾性などから、桃山時代後期に京都で興った芸術の流派「琳派」(りんぱ)にちなんで、「現代の琳派」「いま琳派」などと称されます。還暦直前に絵筆を握り始め74歳となる今日まで、京都を中心に国内外の約180カ所の店舗や病院、公共施設などに壁画を描いてきました。キーヤンが横浜中華街の会社にゾウの絵を描くと聞いて、その様子を取材しました。

 この会社は、世界の民芸やフォークロア商品を扱う「チャイハネ」などの店舗を展開する「Amina Collection」(アミナコレクション)=横浜市中区=です。本社機能を現在のオフィスビルの4階から7階に移したのを機に、キーヤンに壁画を依頼しました。新しいフロアは、「シルクロード」というコンセプトで事務スペースや社員の休憩場所、ライブラリーなどをリニューアルしましたが、和の業種も展開しているのにエスニックに偏ったデザインとなってしまったといいます。そこで、進藤さわと社長は「和の色彩にも合い、オリエンタルな雰囲気も持ったゾウをモチーフとしてお願いしました」と話しました。
 ゾウは、キーヤンがロックイベントのプロデューサーをしていた1970年ごろ、隔週土曜に京大西部講堂で行った「MOJO・WEST」というロックイベントのシンボルマークにもなっていました。絵師に転身して間もないころの2002年、京都市内のレストランにゾウを描いて以来、コイに次いで好んで描くモチーフの1つです。「大きな動物の心が優しいところに引かれた」といい、「象は自分の中でいろんなイメージを持つことができたんやろね」と話します。

何枚ものゾウの下書きを持ち込み、頭の中で絵の構成を考えるキーヤン


 壁画制作は、必ず妻、知位子さんをはじめ、武田修二郎さん、西嶋佳代さんからなる「チームキーヤン」で行います。21日に、住まいのある京都から新幹線で駆けつけ、到着するなり自身で描いたゾウのスケッチ画を手に、下書きもせずに青いチョークで壁に向かって一気に描き始めました。エレベーターの扉が開いたら真っ先に飛び込んでくるようにと、エレベーター正面とそれに続く廊下がキャンバスです。その数36頭。これには意味が合って、モチーフの総数は縁起がいいとされる「9」の倍数にこだわり、今回は「三十六歌仙」をもじって決定したそうです。
 しかもいずれのゾウも一方向に向かって飛んでいます。キーヤンは動物を描く際には、一般的に〝吉相〟といわれる辰巳(たつみ)の方角(南東)に向かって下から上に飛ぶように描くことが多いのです。
 大小のゾウが入り乱れ、象使いのような人が乗ったりぶら下がったりしています。キーヤンが下書きを終えたそばからチームのメンバーが金色のアクリル絵の具でどんどん縁取りを始めました。すると、がぜんゾウの表情が生き生きとしてきました。さらに赤を基調とした色を入れ始めました。その様子を見た進藤社長は「勢いがあって、景気がいいですね」と目を輝かせました。

竹の棒の先につけた青いチョークで一気に下書きを描くキーヤン


見事な筆さばきで金の縁取りをする「チームキーヤン」メンバーの西嶋佳代さん



制作2日目にして、金の縁取りがほぼ終了。一部色つけを始めました


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