1980年代の活動初期から描かれている天使や月といった代表的なモチーフ、可愛いさと意地悪さ、無邪気さと神聖さといった両義性をもつ子どものポートレートは、紙袋や印刷物の裏などに色鉛筆で描かれたドローイングからペインティング、小屋状のインスタレーションまで、さまざまな表現となって展示されています。本展では、1980年代初期の作品から最新作まで36点を公開しており、2011年の東日本大震災以降、「作家としての自覚と覚悟が生まれた」といい、近年では「大きな文化のなかではなく、小さな文化のなかで生きていたい」という奈良さんの作品の変遷を見て取ることができるでしょう。とくに最新作《Miss Moonlight》(2020年)では、女の子は目を閉じ、静かな表情を浮かべています。何色も塗り重ねられた深い色合いのこの作品は少し奥まった場所の高い位置に展示され、見上げていると、自然に祈りの心のようなものが生まれます。逆にあえて低い位置に配置された絵画もあり、こうした奈良さんならではの空間構成の妙味も堪能していただきたいですね。人形や小物、書籍など奈良さんの個人コレクションの展示に加えて、小屋状の《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》(2006年)内部にあるコレクションが並んでいる様子は、奈良さんのスタジオの雰囲気そのもの。じっくり楽しんでください。
右から、内部に人形や小物、書籍などさまざまなコレクションとともにドローイングなども飾られている《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》。反対側の窓から中を覗き込むことができる。新作の《Miss Moonlight》の前にはベンチが置かれ、静かに作品と対峙することができる。手前右は《Submarines in Girl》(1992年)。