世界が認めた
麹を使った酒造り
日本酒造りに欠かせない麹菌(こうじ)は、日本以外の国にも存在している。その菌を使って、発酵食品をつくる国もある。ではなぜ、日本の酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録されたのか。その理由のひとつは、日本人の探究心にある。良質な麹を選別し、育て、うまく活用する方法を試行錯誤する。そんな先人たちの努力が、世界に認められたということなのだ。
「何世代にもわたり磨き続けてきた、日本の酒造り、米麹の文化が世界に評価された。それは本当に嬉しいことです」。そう語るのは、「七賢」をつくる山梨銘醸の代表・北原対馬さん。創業1750年、江戸時代から続く酒蔵の13代目だ。
「私が大学進学のために上京したのが2000年ごろ。その当時には、日本酒離れという声はすでにあり、日本酒業界への危機意識を感じていました」。そこで北原さんは会計の知識を身につけることに。卒業後には渡米し、現地で日本酒の営業活動もした。そうして蔵に戻ってきたのが2007年。蔵の経営状況は、好調とは言えないものだった。
「大学で醸造を学んだ弟と、蔵のリニューアルをしていくことにしました」。それは、自分たちの酒造りを見つめ直すことでもあった。代々紡がれてきた「七賢」の本質的価値はどこにあるのか。自問自答を繰り返し、たどり着いた答えが「水」だった。
白州の名水の
ポテンシャルを引き出す
「ここ白州は、名水の里です。この超軟水を生かした酒造りを追求していくことにしたんです。目指したのは、華やかで爽やかな味わいです」
その後、試行錯誤を繰り返しながら、2014年にラインナップを大幅リニューアル。酒の味もパッケージも刷新した。2015年には、いまや七賢の代表作とも言えるスパークリング日本酒をリリースする。
「文化継承のためには、飲む人も増やしていかなければいけません。そのためには、視野を広く持つことも必要です。日本酒業界の中だけで上を目指すのではなく、ウイスキーやワインと同じ土俵に立っていきたい。ある種のエンターテインメントとして、さまざまな場所で魅力を伝えていきます」
こんなにおいしいものを、届けないわけにはいかない。北原さんのその言葉に、強い覚悟を感じた。

タンクの中で発酵中の醪(もろみ)。厳密な温度管理のもと発酵をコントロールし、さまざまな味わいの酒がつくり出される。

蔵の中は清掃が行き届いた気持ちのいい空間。

仕込み水の水源は甲斐駒ヶ岳。サントリーのウイスキー「白州」と同じ水源の水を使って、七賢の酒はつくられている。
《Report》
「七賢」の酒蔵に行ってみよう!

1835年に建てられた蔵には、ショップや展示室も併設。この日は海外から蔵を訪れたゲストのために英国国旗が掲げられていた。

明治13年に山梨ご巡幸中の明治天皇が宿泊した母屋の奥座敷。七賢の由来となる「竹林の七賢」の欄間も取り付けられている。

母屋に入ってすぐのところにある酒処「大中屋」では、七賢の酒の試飲&購入が可能。蔵出しの生酒も楽しむことができる。

純米吟醸「天鵞絨(ビロード)の味」1650円(720ml)。地元産の酒米を使用。切れのいい果実味と軽快な酸味の七賢定番の酒。

蔵の敷地内にある「レストラン臺眠(だいみん)」。鮭の糀づけや、発酵技術を生かした伝統料理を味わうことができる。

蔵に眠る数十年前の古酒は、水の代わりに酒で仕込む貴醸酒造りに使われ、「Expression」という特別な酒に生まれ変わる。

先代である父親から蔵を受け継ぎ、2018年に社長に就任した北原さん。七賢を多くの人に届けるために世界中を飛び回る。

山梨銘醸
山梨県北杜市白州町台ヶ原2283
Tel. 0551-35-2236
[営]ショップ9:00〜17:00、レストラン11:30〜15:30(L.O.15時)、17:00〜20:30(完全予約制)
[休]火(ショップは営業)
※現在、醸造蔵見学は休止中
https://www.sake-shichiken.co.jp