いつ発生するかわからない災害に対して、個人でできる「自助」には限りがある。そうしたなか、地域社会や家庭の暮らしを支える企業は、どのような取り組みをしているのだろうか。3つの企業に話を聞いた。
戸田建設 × コアウォール免震構造
災害は人の都合を考えてくれない。いかに自宅で防災に備えようとも、外出中に災害が起こることもある。特にビルが密集する都心では、建物の倒壊だけでなく、上空からの落下物など、リスクは高い。そして、人も多いことから、混乱は免れない。そうしたなか、大きな企業が取り組んでいるのが、“地域防災”への貢献だ。
「弊社のある京橋は、ビジネス街ですが、古美術商やギャラリーが集まる“芸術の街”の一面もあります。そうした背景もあり、本社の『TODA BUILDING』には、オフィスだけでなく芸術文化施設も入っていて、一般の方々も多く訪れます。もし災害が起きてしまった場合、働く人や地元の人のみならず、京橋へ楽しみに来た人々に安全と安心を提供しているので、TODA BUILDINGの広場を思い出して逃げ込んでほしいと考えています」(戸田建設 建築設計第1部 建築設計1室長 中川康弘さん)
TODA BUILDINGは2024年に開業。近年、激甚化・頻発化する災害から「想定外を起こさない」を命題に建てられた。まず、建物内の人々に危険が及ばないことが重要であり、日本最高峰の安全性を有している。2026年度「日本免震構造協会賞」で作品賞を、世界の免震・制振技術を表彰する「ASSISi Awards 2025」ではグランプリを受賞と業界内でも注目されるほどだ。
「高さ165mのTODA BUILDINGでは、目標とする高い耐震性能を確保するため、2000年代から開発を重ねた『コアウォール免震構造』を採用しました。その特徴は、高層階の揺れを軽減し、什器・家具の転倒を最小限に抑えること。制振構造を採用した一般的な超高層ビルと比較すると、2倍以上の性能となっています。今は本社だけですが、これから積極的に展開していきたいと考えています」(構造設計部 構造設計2室 主管 川又哲也さん)

©川澄・小林研二写真事務所
高さ165m、28階建てのTODA BUILDING。総合建設会社の技術が結実し、国内最高クラスの耐震性能を実現した

©川澄・小林研二写真事務所
災害時には、広場が一時滞留スペースに。
地震により建物は変形するが、その建物の傾きの角度は、一般的な超高層ビルでは、建物の変形が階高の1/100程度に対し、TODA BUILDINGは1/300を誇る。構造体も内外装も、ほぼ無被害に抑えられるそうだ。
そして、地域防災の一環として、災害発生直後に発生する帰宅困難者の受け入れも行い、非常食や防寒・衛生用品などの備蓄や、避難時の設備を充実させている。
「建物内外で2000人以上の帰宅困難者の受け入れが可能です。主要なエネルギーインフラとして、ガスを利用した熱電併給システム、大容量非常用発電機の導入、各種水槽による非常時の生活用水確保など、複合的な技術の組み合わせで、72時間以上事業継続可能な体制を構築しています。
また、建物単体だけでなく、1階の床下に設けた免震層により、一時滞留スペースである広場も地震の揺れが軽減され、安全性を高めています」(中川康弘さん)
区の大規模模擬訓練への参加や、ビルの消防訓練で近隣の就業者に参加してもらうなど、地域との連携も強化している。
「非常時の迅速な情報共有や、帰宅困難者の受け入れを円滑に行うためには、行政や周辺施設とコミュニケーションを築いておくことが重要。そもそもビルが防災拠点だと周知してもらうためにも必要だと思っています。万が一、災害が起きた際は非常に不安でしょうが、近くにいらした場合にはTODA BUILDINGを思い出して安心してお使いください」(プロパティマネジメント部PM2課長 川野正博さん)

建物中央の「ダブルH形コアウォール」や、そこから伸びる「アウトリガー架構」などで地震の揺れを抑える
アイリスオーヤマ × 防災アイテム
今なお記憶に残る東日本大震災。宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマも、甚大な被害を受けた。
「防災アイテムは1995年から取り扱っていましたが、あの日以来、災害時に困ったことに注目して、商品開発を進めています」(アイリスオーヤマホーム事業統括部ハード・ガーデン事業部商品企画 若佐涼平さん)
防災アイテムは進化している。一方、日本ではさまざまな災害が起き、そのたびに新たな問題が浮かび上がっている。
「直近では、2024年の能登半島地震で、排泄物の匂いが問題になりました。そこで、防臭袋のついた非常用トイレを作りました。トイレ凝固剤も高齢者から『使い方がわからない』という声があって、吸水シートと袋が一体となったタイプを開発しました。袋を広げて便器にかぶせるだけの簡単設計で、災害時でも迷わず使用できます。社内外で被災者の方の話を聞いたり、別の防災士からも意見をもらうなどして、防災アイテムをアップデートしています」
自らも防災士の資格をもつ若佐さんは、商品開発の経緯を教えてくれた。定番の防災リュックについても、食料の備蓄は広まっている一方で、生活必需品の備えは見落とされがちだ。支援物資が届くまでの約3日間を想定し、衛生用品や停電対策用品、防寒用品などを選定。
「防災リュックには、防災アイテムの使い方・活用方法を記載した『防災手帳』を入れています。防災アイテムを購入したら、実際に使ったり使用法を調べてほしいですね。それだけで、被災時の不安が少しは解消されると思います」
さらに、点検・補充を兼ねて、年に一度でも防災アイテムを使うことを勧める。
「経験してみないと、日常生活との違いは想像できません。使えば、足りないものなどもわかってくる。準備した防災アイテムを、埃を被った状態にしておかないっていうのが大事ですね」

「3日間分の緊急防災セット(1人用)」の中身はエアベッドなど28点。HPでは自分に合ったセットが探せる

電気復旧時に起きやすい火災を防ぐ「感震ブレーカー」。地震の揺れを感知して主幹ブレーカーを遮断する
旭化成ホームズ × ペット防災
ペットは家族の一員だ。災害時であっても、飼い主にとってその感覚は変わらないはず。そこで大事なのが、「愛するペットを救えるのは、自分自身しかいないんだ」という意識だと、旭化成ホームズのLONGLIFE総合研究所・河合慎一郎所長は話す。
「自分がまず生き延びること、それが大前提で、全力でペットのケアをすることが大切です。フードや水などの備蓄はしていても、自分の不在時にいつもワンちゃんが寝ている場所の落下物や、ガラスの飛散などは見逃しがち。仕事中に何かあったら守れません。ペットの行動を踏まえた対策が必要です」
そして、災害時はまず、自宅で安全に過ごせるかを考えておくことが大切です。と河合所長は続ける。
「ペットと一緒に避難する『同行避難』は広がっていますが避難所で同じ空間で過ごせるとは限りません。すると、ペットにとっては非常にストレス。普段から慣れた環境や使い慣れたもの、人とのつながりを育てておくことが大切です。それは備蓄についても同じです。ただし、災害支援は人間が優先されます。支援が遅れがちなペット用品は、普段使っているものを7日分以上備えたいですね」
そして、もうひとつ大切なのが、“共助”という考え方だ。旭化成ホームズでは、ペット共生型賃貸住宅を展開しているが、そうした住まいにおいても近隣との関係性は防災、特に災害後に重要になる。
「自宅の倒壊や復旧など、ペットと一緒に自宅にいられない可能性もあります。それを考慮して、預けられる環境を用意しておきましょう。それも“慣れ”が欠かせません。家族や友人にはすぐ会えるかわかりませんが、近隣の人なら日常的に顔を合わせることができます。普段からご近所さんとの関係を築いておくことが大切です。とにかく環境変化を少しでも減らしましょう」

ペットと安心・快適に暮らせる「PAWTNER」では、入居者同士のコミュニティづくりを促すイベントなども開催

自治体や地域と連携したペット防災イベント。防災知識の普及に加え、地域住民のつながりづくりを通じて、『共助』の備えの形成を目指している。