バレンタインデーにありったけの想いをチョコレートではなく音楽に込めたら、世界デビューしてしまった。パッション・ピットのロマンチックなサクセス・ストーリーです。長い髪を垂らして王子様と逢瀬を重ねる童話のラプンツェルを引用した「Cuddle Fuddle」にこっ恥ずかしい気持ちにさせられながらも、たった1人へ向けてつくられた極私的な音楽には、不特定多数の人にも刺さる鋭さがあるんですね。2月は「恋するサウンドトラック」がテーマです。
「恋している状態と音楽の初期衝動は似ているかも?」と思い選んだのは、ロリータ系ティーンエイジ・ガール率いるガレージロックバンド、エンジェリック・ミルク。演奏もPVもすごく粗削りなのだけど、日本の“KAWAII”カルチャーを思わせる独自の世界観をDIYでつくり上げ、しかもロシア経由で発信しているというのがユニーク!「Tie Me Up」「IDK How」ではエロチシズムをちらつかせ、10代にして確信犯的なアーティスト。可愛いからといって油断なりません!
椎名林檎の『勝訴ストリップ』が思春期のサウンドトラックだったアラサーの私が不覚にも涙腺崩壊したラブソングが、アメリカと日本のハーフであるミツキの「Your Best AmericanGirl」。届かない想いの根底にあるのはルーツの隔たり。それを太陽と夜の住人に例えたり、相容れないお互いの母親の育て方を持ち出してみたりしながら詩的に紡いだ素晴らしい歌詞なのです。それをとびっきりのグランジ・サウンドでかき鳴らす(ギターの位置は低めで!)。恋心を歌うにはやっぱりロックですね。
PASSION PIT『Chunk Of Change 』
米国の5人組バンド(現在はマイケル・アンジェラコスのソロ・プロジェクト)のデビュー作。もともとマイケルが当時の恋人に向けてつくったバレンタインデーのプレゼントだったとか

ANGELIC MILK『Teenage Movie Soundtrack』
ロシア・サンクトペテルブルクを拠点とする4ピースバンドのデビューEP。ロリータファッションに身を包んだボーカル&ギターのサラを中心にローファイなガレージサウンドを鳴らす

MITSKI『Puberty 2』
ニューヨークを拠点に活動するアメリカと日本のハーフであるミツキ・ミヤワキのソロ・プロジェクト。本作は4枚目のスタジオアルバムで、タイトルは「2度目の思春期」という意味

selection&text:稲葉智美(いなば・ともみ)
ラジオDJとして活動するほか、BGM選曲やナレーションを手がける。フェスとライブを愛する音楽女子。バレンタインデーのお返しで一番驚いたのは「A5和牛」。そんなに肉食に見えたのだろうか…
Twitter: @tommyjan15