selection&text: 稲葉智美

《音楽日々帖》ボブ・ディラン、 ハナレグミ、平井堅の 共通点


 ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが、フジロックのヘッドライナーに決定しました! シンガーソングライターのイメージが強いボブ・ディランですが、実は最近の3作品はカバーアルバムなんです。直近2回の来日公演に足を運びましたが、時折ピアノを弾くことはあるものの、ボーカリストに徹していたディラン。スタンドマイクを前に手をポケットにつっこみ仁王立ち。意外なほど表情豊かに歌うその様相は、シンガーソングライターというよりもストーリーテラーです。歌い方もアレンジもまるで原型をとどめていない21世紀版「風に吹かれて」を聴きながら、いまのディランはカバー曲・自作曲に関わらず、歌に秘められたストーリーの語り部に徹しているのかもしれないと感じました。

 自身のホームページで「歌い手になりたい。自分のなかでシンガーという比重は大きい」と語るのはハナレグミ。2013年のカバーアルバム以降、オリジナルアルバムでも他者に詞曲を委ねる機会が増えています。ラッドウィンプス野田洋次郎が手がけた「おあいこ」は、ハナレグミ特有の温かさと少しの淋しさに、切実さや女々しさを露わにする野田節が溶け合い、新境地を開いた一曲です。

 一流のソングライターでありながら、歌い手であることにこだわるのは平井堅も同様です。思い起こせば、誰もが知っている童謡「大きな古時計」を歌い日本中を感動させた歌手。「歌バカ」を自称する平井堅が名曲をカバーする企画「Ken’s Bar」は今年20周年を迎えます。シンガーソングライターたちが挑む歌唱表現の奥深さを堪能してみてはいかがでしょうか。



BOB DYLAN『Triplicate』

 舞台やミュージカル映画に登場する古き良きアメリカン・スタンダードのカバー集。ディランは楽器を演奏せずボーカルに徹している。円熟味を増したロマンチックな歌声は必聴

ソニー・ミュージック 2017


ハナレグミ『What are you looking for』

 自身の楽曲のほかYO-KING、池田貴史、堀込泰行、大宮エリー、辻村豪文が参加し、歌い手としての新境地を開いたオリジナルアルバム。5月26日のグリーンルーム・フェスに出演

スピードスターレコーズ 2015


平井堅『Ken's Bar Ⅲ』

 1998年にスタートした名曲をアコースティック・アレンジでカバーする企画「Ken’s Bar」から生まれた3作目。5月30日のコンサートは各地の映画館でライブ・ビューイングが開催される

Ariola Japan 2014





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