新橋の"売れっ妓こ芸者"だった千代里が、美人への道をご案内。今日も一日、ささやかな心がけが美をつくり、福を招きます。
芸者一年目に、花代が一番になった理由をきかれることがあります。振り返ってこれかなと思い当たるのは"感謝の習慣"。子供の頃から我が家では、布団の中で「今日も一日ありがとうございました。明日もよろしくお願いします。おじいちゃん、おばあちゃんetc…おやすみ」と、家族や親戚などに感謝を捧げて眠っていました。芸者の住み込み時代にはその延長で、ご先祖様やお姉さん、お師匠様やお客様、朋輩などにありがとうございますと心の中で言っていました。
もちろん中には嫌いな人もいたのですが(笑)、憧れて入った世界で出会う人はどんなかたちであれ、今の自分に必要な人。一日中感謝はできなくても、寝る前だけは「ありがとう」の気持ちでいようと思っていました。そうして自然と感謝できている時は、目に見えないものに守られるようで、毎日起こる出来事を自分なりに楽しみ、目の前の人との時間が楽しく、幸せで充実していました。
ところがその気持ちを忘れて傲慢になっていくにつれ、起こる出来事も、自分の心の中もどんどん悪くなっていきました。どんなに美味しいご飯でも、「当たり前」「たいしたことない」と味わいもせずに食べるのと、塩むすび一つでも、ウンと味わって、つくってくれた人にまで思いを馳せながら食べるのでは、感じ取る喜びの量がまったく違います。どんなにたくさん素敵なものを持っていても、人は幸せにはなれない。幸せになるためにたった一つ必要なのは、自分の人生にちりばめられている恵みを感じるアンテナだと、心が荒すさんだ時につくづく感じました。
感謝とは、言い換えれば「恵みを味わう心」。礼儀としてするものではなく、幸せに生きるために不可欠なもの。心が荒む時こそ、今ある恵みに気づいて味わうことで、見える世界が変わります。"感謝"は、今すぐ福を呼ぶ大開運法なのです。
千代里(ちより)
エッセイスト。元新橋芸者。花柳界で学んだことについての講演が人気で全国を回る。古今東西の美しい女性のしぐさや言葉を調べるのが好き。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』など