新橋の"売れっ妓芸者"だった千代里が、美人への道をご案内。今日も一日、ささやかな心がけが美をつくり、福を招きます。

《お多福美人講座》水を滴らせない、いい女


 小さい頃、親戚のお姉ちゃんに、周りの人の迷惑にならないお風呂の入り方を教わったことがありました。温泉などでよく見る注意書きのように、かかり湯をする、長い髪やタオルをお湯につけない、という基本のことから、立ったままざぶざぶ水をかぶらない、シャンプーを撒き散らすような激しい髪の洗い方はしない、という、家で一人で入るときには気にしていなかったことまでレクチャーを受けて、そおっと湯船に浸かりました。水しぶきを人にかけることはとても失礼なこと。そうならないように、日本女性はお風呂場でもこんなに心配りをするものかと思いつつ、自分の普段の生活ではなかなか身につかず、好き勝手に過ごしていました。

 ところが置屋に住み込むと、水回りのことでは特によく叱られて、水の扱い方には美醜が出ること、品性までもが表れるのだということが徐々にわかってきました。「高い位置から、うがいや歯磨きの水を吐かない」「洗面所は水浸しにしない(床とともに濡らしたら拭いておく)」という当たり前のことができているだけで、女性はとても魅力的に見えるものです。

 お化粧室で、洗った手をいっぱいに広げて、豪快に振っている女性に出会うと、水しぶきが飛んでこないかという不安と、見た目の悪さにげんなりしますが、きれいにアイロンのあたったハンカチで手を拭いている女性からは、いい香りまでしてくるような気がしてきます。歯磨きをしている女性が、そっとかがんで飛び散らないように口をすすぐ姿も、当たり前のことではありますが、奥ゆかしく感じるものです。お茶碗を洗うとき、布巾を絞るとき、とにかく水を触るときには、周りへ配慮する心をもつだけで、その仕草はぐっと色気が出てきます。日本人の色気とはつまるところ、相手を慮る心が匂い出たものかもしれないと思うこの頃です。


ちより
エッセイスト。元新橋芸者。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』『福ふく恋の兵法』など。独特の語り口で、講演でも人気を集める。目標は90歳まで仕事を続けること。世界の民話を読むのが好き。





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