巣立ちのときだけでなく、キャンプの片付けなどでもよく聞く「立つ鳥跡を濁さず」という言葉。マナーとして、去り際の美学としてよく使われますが、私はこれを、これから飛ぶ方向を示し、その景色をよいものにしてくれる言葉のように感じています。
結婚をする、お店を出すなど、花柳界を去る理由は人それぞれですが、私が芸者を辞めるときには、先のことが何も決まっていませんでした。そんな状況で、辞めるにあたってご挨拶にうかがうと、心配してくださったり、引き止めてくださることもあれば、「この世界を去るからには、これからは付き合わない」というお言葉をいただくこともありました。いろんな方のお世話になってやってこられたこと、その思いに報いずに違う世界に行こうとしていることなどに改めて気づいて、「新しい世界では、自分にとって“これ”と感じるものをきっとつかもう」と気が引き締まりました。着物やお三味線など、身の回りの道具の整理をしていくうちに、「私は本当に芸だちが悪かったなぁ(涙)」とか、「お客様や大きいお姉さんのお話を聞くのが好きだったなぁ」と、自分の苦手なこと、興味のあることを再確認することになりました。そこで自分の今までを振り返り、適性や本当にやっていきたいことについて、答えは出ないなりにもじっくり考えたことが、今につながっていると感じています。
また、ご挨拶できないままで、「跡を濁した」と申し訳なく思っていた方々にも、初めての本が出たのを機にご挨拶ができたことで、次の仕事のご縁につながることもありました。
私は本来、後始末が苦手で、目先のことに前のめりに突進してしまうタイプ。気がつけば散らかし放題のことも多々あります。だからこそ、不安なとき、先が見えないとき、先を急ぐときこそ足元を整える。それが未来を照らしてくれると感じています。
