《渋谷》ドキュメンタリー映画「カピウとアパッポ」 歌い継ぐアイヌの姉妹の物語


 北海道釧路市阿寒湖町で、アイヌ民族の伝承歌「ウポポ」を歌い継ぐ姉妹を5年の歳月をかけて追ったドキュメンタリー映画「kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~」(カピウとアパッポ)が19日から東京・渋谷の映画館「ユーロスペース」で上映されています。東京で音楽活動をしていた姉が2011年3月の東日本大震災をきっかけに里帰りをし、妹とともにステージに立ちアイヌの歌を披露するまでを描いています。佐藤隆之監督は、実際に自分でカメラを回して姉妹を密着撮影し、その傍ら監督業もこなし、さらに編集作業にいたるまですべて1人で行ったそうです。
 主人公は、阿寒湖温泉を拠点に国内外で幅広く音楽活動をする床(とこ)絵美さんと郷右近(ごううこん)富貴子さん姉妹。映画のタイトルは、絵美さんの愛称の「カモメ」(カピウ)と富貴子さんの愛称の「福寿草」(アパッポ)を現すアイヌ語です。

初の姉妹ライブに向けて練習を重ねる富貴子さん(左)と絵美さん  (C)office+studioT.P.S/OLIO FILMS


阿寒湖町での生活にいそしむ絵美さん(左)と富貴子さん  (C)office+studioT.P.S/OLIO FILMS



 阿寒湖町にある「アイヌコタン」(アイヌ村)で生まれた2人は、アイヌの伝承歌を聞いて育ち、歌はもちろん、アイヌ独特の「ムックリ」という竹製の口琴を演奏したりアイヌ舞踊を踊るなどアイヌ文化に慣れ親しんできました。そして、結婚してそれぞれが3児の母となるなど普通の現代女性としての生活を送っていました。絵美さんは故郷を離れて東京・高尾に住み、アイヌ関連のイベントでアイヌの歌や踊りを披露するほかアイヌの音楽を現代風にアレンジした音楽活動を行い、一方富貴子さんはアイヌコタンから出ることなく、早朝の阿寒湖巡りの遊覧船で観光客にアイヌの歌やムックリ演奏などのパフォーマンスを披露していました。
 別々に暮らす姉妹を結びつけたのは、あの東日本大震災でした。幼い子を持つ母親として、目に見えない放射能の影響に神経をとがらせ疑心暗鬼になる絵美さんは、ふるさとに戻る決意をしたのです。再会を喜ぶ姉妹にどこからともなく姉妹でのライブの企画が持ち上がりました。観光地での生活に忙殺され、すれ違い激しくぶつかり合う姉妹。しかし、思い出の場所で腹を割って話し合い、心を一つにして初の姉妹ライブのステージへと向かうのでした。

2人の住む阿寒湖町の「アイヌコタン」。アイヌ工芸の商店街で約150人のアイヌ民族が暮らしています=11月6日(写真・田中幸美)


神秘的な湖、阿寒湖=11月4日(写真・田中幸美)


 佐藤さんは、大林宣彦監督の映画「さびしんぼう」(1984年)や鈴木清順監督作品などの助監督を務め、テレビドラマの監督なども手がけました。20代の助監督時代に関わった映画で、アイヌのエカシ(長老)に初めて出会いました。そのえもいわれぬ品格と堂々とした立ち居振る舞い、野太い声などにひかれ「アイヌにはこんな人がいるんだ。いつかアイヌをテーマに映画を作りたい」と思うようになったそうです。10年前、45歳のときに一度は映画をあきらめて別の仕事についたのですが、「やり残している仕事がある。アイヌのことをやらないと気が済まない」と思い立ち、それから東京・中野にあるアイヌ料理屋に足しげく通うなどしてアイヌの人たちとの交流を深めました。
 そんなときに絵美さんと出会いました。「親しみやすくてかわいらしい半面、とてもしっかりしている」。出会ったときの印象を振り返ります。そして、絵美さんの歌を聞き、アイヌの伝承を受け継ぐ確固たる姿勢に感銘を受けて本格的な撮影を始めました。阿寒湖町にも通い、富貴子さんともすでに知り合っていたので、2人の両親や周囲の人たちも含めて説得し、撮影に入ったそうです。震災の1カ月前のことです。ただ、音楽活動をする姿だけでなく、家で子供を叱りつけ、家族とともに食事をして、夫婦で話し合うなど日常のありのままの姿を撮り始めました。
 そうしているうちに起こった東日本大震災。当時「2人がいつか一緒にライブをするだろうとか、絵美さんはそのうちに阿寒湖に戻るだろうかという希望的観測のようなものはありましたが、まさかこんな形で実現するとは思っていませんでした」と佐藤さん。
 その後絵美さんと子供たちとともに東京から阿寒湖町へと向かう車に同乗。2泊3日で約1400キロの道のりをたどる旅を一緒にしたそうです。「助手席に座って絵美さんを撮影したりときどき運転を代わったり、子供が車内でけんかを始めたり…。あれは忘れられない旅となりました」と振り返ります。
 そして、「最初はアイヌ民族のことを映画にしたいと思っていましたが、この2人と出会って、撮影するうちにアイヌ民族というより個人の魅力だなと思うようになりました」と話します。アイヌ民族である彼女たちではなく、彼女たちの中にあるアイヌ性と捉えているそうです。そして「家族を思う気持ちや生活で葛藤したり苦しんだりする姿は民族に関係ない。懸命に暮らす中で受け継いできたものが自然に現れていて、それが彼女たちの歌なのです」としみじみと語りました。

「最初はアイヌという誇り高い民族にひかれたものの、最終的には2人の個性と個人としての魅力にひかれました」と話す佐藤隆之監督  (写真・田中幸美)


 19日~12月2日には東京・渋谷の「ユーロスペース」で、11月26日~12月2日は名古屋市中村区の「シネマスコーレ」で上映されます。このほか高知や大阪でも詳細未定ですが、上映が予定されています。
詳しくはホームページ http://www.kapiapamovie.com/


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