東京・銀座の松屋で開催しているバレンタインチョコレートの祭典「GINZAバレンタインアベニュー」。チョコレートを求めてやってくる女子で連日にぎわうこの会場の一角に、和服や作務衣風の衣装をまとい、頭には手拭いというおよそチョコレートとは関係なさそうな和のムードたっぷりの一団がいます。
それぞれチョコレートをモチーフに考案した独創的で新しい和菓子を手に、このイベントに今年初めて参入した6軒の老舗和菓子店の若旦那たちです。

6人の和菓子職人の珠玉の一品が結集しました
職人でもある若旦那たちは、和菓子の実演を行ったり、売り場で積極的にお客さんと会話するなどして、和菓子の世界への水先案内人の役目を担っています。
唯一東京から参加しているのが「江戸久寿餅」(東京都江戸川区)の三代目、小山信太郎さんです。

「江戸久寿餅」の三代目、小山信太郎さんは生のくず餅の復活を実現させました=東京・銀座の松屋
今回の催事のために、ハート形の「江戸久寿餅チョコ」(864円・税込み)を用意しました。フランス・ヴァローナ社の高級チョコレートをくず餅に練り込み、ハートの中央のくぼみに添えるトッピングにもチョコあんとヴァンホーテンのココアパウダーを使用しています。「これでもかというくらい使って、チョコのお祭りみたいな感じにしました」と小山さん。ハート形はブログの読者からの提案を採用しました。

カラフルなハート形のくず餅もあります
確かに言われないとくず餅とはわかりません。チョコレートと黒糖を混ぜたりいろいろ試作しましたが、チョコだけの味が一番おいしいという結論に至りました。チョコの味が濃厚な上、中にはチョコチップも入っているで、食感は〝パリッ、サクッ〟です。

別添えのチョコあんとココアをハートのくぼみに入れて食べるそうです

透明のパッケージに入った江戸久寿餅
小山さんは10年前、5年間勤めた高校の英語教師をやめて、家業の「くず餅」の製造工場を引き継ぎました。そのころは、10日くらい持つような加熱殺菌を施したくず餅を製造して和菓子店などに卸していました。
そして、代替わりをした6年前、従来の日持ちのするくず餅に加え、日持ちのしないため卸しには向かないとされる〝生〟のくず餅をあえて売ろうと決心したのです。それは子供のころ、おやつに食べていた懐かしい味でした。「お客さまにも食べていただきたい」。店舗を持たない「江戸久寿餅」では、工場直売を始めました。最近では百貨店の催事にも声を掛けられるようになったそうです。

工場の直売と最寄り駅での出張販売を行っている〝生〟のくず餅。今回のイベントにも登場しました
小山さんの夢は店舗を持つこと。「くず餅屋はみんな100年以上やっているところが多いんですよ。うちは何もないので、歴史や伝統を守るのでなく、自分たちで歴史を作るんだという気概を持ってやっています」と話していました。
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イベントに集った6人の和菓子職人たちはみな、和菓子を洋菓子と同じくらい広めたい、おいしい和菓子を食べていただきたいという情熱であふれています。
彼らを集結させたのが松屋の和菓子バイヤー、牧野賢太郎さんです。「バレンタインはチョコではなくギフトを送るものだと考えていました。さまざまなものを見て求めたいと考えるお客さんが多かったので、和菓子だってギフトになるだろうというのが最初の着眼点です」と振り返ります。
さらに「僕自身、若旦那衆と接してきて彼らの和菓子に対する〝熱〟を感じていて、そういう熱をお客さんに伝えるのが僕の役目だろうと思っていました」とも。
イベントの会期はいよいよ14日まで。バレンタインの新しい提案は、和菓子の裾野を広げるまたとないチャンスをものにしていました。
(写真はすべて田中幸美)

6人の和菓子職人と松屋和菓子バイヤーの牧野賢太郎さん(左端)は、まるで和菓子の〝7人の侍〟=東京・銀座の松屋 (写真提供・佐藤慎太郎さん)
◆「GINZAバレンタインアベニュー」の詳細は、http://www.matsuya.com/m_ginza/sp/20170125_valenti...
◆「江戸久寿餅」のホームページは、http://www.yamashin-shokusan.co.jp/