今日の茶道を大成した千利休が手にし、飲んだ茶碗の数々が450年の時空を超えて目の前にあります―。

初代 長次郎 赤樂茶碗 「 無一物」 重要文化財 桃山時代(十六世紀) 頴川美術館蔵 (3/14~4/2)
利休の追い求めた茶の湯の理想を「樂茶碗」という形で具現化した焼物師、長次郎。「樂焼」は樂家の初代、長次郎によって始められ、現代の十五代に至るまで〝一子相伝〟で継承され、日本の陶芸において他に類を見ない独特の美意識に基づいた世界を構築しています。

初代 長次郎 赤樂茶碗 「 一文字」 桃山時代(十六世紀) 個人蔵 (3/14~4/9)
その初代から当代の十五代までの約150点の作品を集めた展覧会「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」が東京・竹橋の「東京国立近代美術館」で開催されています。

樂家450年の伝統と技を見ることができる「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」=東京・竹橋の「東京国立近代美術館」 (写真・田中幸美)
十五代の樂吉左衛門さんは「私が生きている間に二度とこれほどの規模の展覧会は開催できない」といいます。利休が愛した初代の黒樂茶碗「大黒」(おおぐろ)をはじめ、歴代の重要文化財のほとんどを一挙公開しているほか、桃山時代に興った装飾性豊かな芸術様式「琳派」の祖である本阿弥光悦の重要文化財などえりすぐりの作品も、かつてない規模で展示されています。

初代 長次郎 黒樂茶碗 「大黒」 重要文化財 桃山時代(十六世紀) 個人蔵

「樂焼」は織田信長や豊臣秀吉によって天下統一が図られた16世紀に花開いた桃山文化の中で、樂家初代長次郎によって始められました。しかし、利休と長次郎が生きていた時代には「樂焼」(らくやき)という名称はまだなかったそうです。吉左衛門さんは、「今、生まれたばかりの名前のない状態で焼かれた茶碗という意味で『今焼茶碗』といわれていました」と話します。

自らの作品の前にたたずむ十五代 樂吉左衛門さん=東京・竹橋の「東京国立近代美術館」 (写真・田中幸美)
樂焼はろくろや型を使うことなく、手捏(づく)ねと呼ばれる技法で一点一点ずつ精魂込めて制作されます。ですから、その貴重な茶碗を手にした人たちは後世に至るまで大切に使ってきました。ちなみに、長次郎が作り、利休が常にそばに置いていたという表千家不審庵に伝わる黒樂茶碗「禿」(かぶろ)は利休から現代に至るまでの所蔵者がすべて判明しているそうです。

初代 長次郎 黒樂茶碗「禿」 桃山時代(十六世紀) 表千家不審菴蔵
吉左衛門さんは、すべてを取り除いて黒一色に特化した長次郎の世界観は、「マーク・ロスコやイブ・クラインを連想させ、現代美術との共通性を感じてしまう」と話しました。長次郎の茶碗は、静けさの中に世の中のすべての常識や価値観をまったく無にしてしまうような激しさを持っているといいます。「長次郎の茶碗はアバンギャルドなんです」
展覧会のサブタイトル「茶碗の中の宇宙」というのは、すべての装飾や形をそぎ落として作った茶碗によって引き起こされる果てしなく広がる宇宙のような有機空間を表現した言葉なのです。

初代 長次郎 黒樂茶碗 「万代屋黒」 桃山時代(十六世紀) 樂美術館蔵 (3/14~4/16)
長次郎の素晴らしさは別格なのですが、その後に続く歴代が「決して長次郎のまねをすることなく、その時代の中で長次郎を自分の中にしまい込み咀嚼(そしゃく)しながら新たな創造をしようともがいてきた」ことに、「先祖を誇りに思う」と吉左衛門さんは語ります。
三代目の道入は、抽象模様を茶碗の正面に浮き出すなどしてモダンな造作を取り入れました。まだ利休を知っている人たちが存命の時代にです。「あれほどモダンなものを創り出すアバンギャルド性や創造性は見事なものだと思います」

三代 道入 黒樂茶碗 「青山」 重要文化財 江戸時代(十七世紀) 樂美術館蔵
さらに「琳派」の中興の祖と称される尾形光琳、乾山兄弟のいとこにあたる五代、宗入は逆に長次郎に回帰しようと試みます。「確かに長次郎と繋がる世界を表現しながら、きっちりと自分自身を表現するなど独自性を発揮しています」
樂家の一子相伝は、すべてが世襲によって継承されているわけではありません。他家からの養子により親戚関係を結び、その「子」に当代のすべての伝える形の「一子相伝」の芸術となっています。養子を取り込みながら親から子へと続いてきた家で作品がきっちりと残っているのは、「樂家」の他には「沈壽官(ちんじゅかん)家」くらいではないでしょうか。
「いい意味でも悪い意味でも日本の伝統のサンプルのようなもの」とも話していました。

四代 覚入 赤樂茶碗 「杉木立」 昭和47年(1972) 個人蔵
また、吉左衛門さん自身のことにも触れました。そうした家に生まれて悩み多い青春を過ごし、家を継承するため京都に戻ったのは27歳のときだそうです。それまでは別の職業を模索したこともありました。

十五代 吉左衛門さんの作品を展示するコーナー (写真・田中幸美)
「自分の茶碗はとてもとんがっています。みなさんに『どこで飲むの?』とか『とんがっていて口が切れそうだ』などさまざまなことを言われましたが、最近はそのとんがりが落ち着き始めているかもしれません」といいます。非常に激しい突きつけ方を世の中にする長次郎の世界観と自らを照らし合わせ、「激しくそして静かに存在したいという思いが強くなりました」と静かに話していました。

十五代 吉左衞門 焼貫黒樂茶碗 平成24年(2012) 東京国立近代美術館蔵
3月28日は利休忌です。利休が秀吉に命じられ自刃したのは1591(天正19)年のこと。
利休と長次郎に思いをはせながら、時空を超えた樂家450年の伝統と技をその目でご覧になってみませんか。
◆「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」は、東京都千代田区北の丸公園3-1「東京国立近代美術館」で5月21日(日)まで。午前10時~午後5時(金曜は午後8時まで、入館は閉館の30分前まで)。月曜休館(3月27日、4月3日、5月1日は開館)。一般1400円、大学生1000円、高校生500円、中学生以下無料。
公式ホームページは、http://www.momat.go.jp/am/exhibition/raku/