ノワールに出会ったのは、上川さんが19歳下の妻と結婚した翌年の2010年1月。夫婦で訪れた保護犬の譲渡会でした。
「僕が近寄ってしゃがんだ瞬間、黒い子犬が口元をペロッとなめてきた。“今回は見るだけ”と互いに約束していたけど、僕の後ろ髪が束になってひかれました」と運命の出会いを振り返ります。
おそらく野良だった母犬から生まれ、生後3カ月ほどで兄弟と保護されたノワール。雑種のため、どこまで大きくなるか分からない不安もあり、誰とでも上手に付き合える犬に育てようと2カ月間訓練所に預けました。
その間、愛犬の不在に耐えられなかったのは上川さんの方で、「仕事があるのに週1ペースで会いに行っていました」
おとなしく、賢い犬は競技会に参加するほど成長。生来の気質もあり、とても我慢強い子に育ったからこそ「なるべく1人にさせたくない」。11年に東日本大震災が発生したとき、上川さんと妻はそれぞれ仕事で外出していましたが、急いで家に戻ると、ケージの中で必死に耐えて待つ愛犬の姿に心がギュッとなったといいます。
「幸い無事だったけど、珍しくおしっこをチビって…。ノワは感情を大きく表現しないけど、一人で被災して本当に不安だったと思う。その夜、妻と3人で川の字になって寝たとき、ようやく安心して眠る姿を見て、彼女なりに苦労して留守番しているんだな、と思いました」と振り返ります。
震災を機に、できるだけ一緒に過ごせる時間をつくろうと決意。大切に守られてきたノワールは今年8歳になり、「遺留捜査」に奮闘する上川がいる京都で“夏休み”を穏やかに楽しんでいます。