ヒキガエルとフグの相撲という〝異色の取り組み〟を描いた伊藤若冲の「蝦蟇河豚相撲図」  (写真・田中幸美)

《京都》若冲生誕300年記念のトリを飾る展覧会を開催 京都国立博物館


 今年は伊藤若冲生誕300年記念のアニバーサリーイヤーで、4月の東京都美術館に始まり神奈川・箱根の「岡田美術館」や東京・広尾の「山種美術館」など各地の美術館で若冲展が相次いで開催されました。東京都美術館には40万を超える人が押し寄せ、若冲人気の底力を見せつけました。そんな中、トリを飾る展覧会が若冲の地元の京都で開かれています。京都市東山区にある京都国立博物館の特集陳列「生誕300年 伊藤若冲」です。
 展示数は28件と小規模ですが、京都国立博物館所蔵と個人や寺などから寄託されている作品とで構成しています。そのうち、8件が初公開、14件は東京都美術館と京都市美術館の若冲展で出展されていない作品です。


 若冲は「動植綵絵」(どうしょく さいえ)に代表されるように、花鳥風月を多く描き、とりわけ鶏は得意な画題でした。しかし、同博物館美術室研究員の福士雄也さんによると、実は多くはないものの人物画も手がけており、しかもいずれもユニークでおもしろい作品で、精細な描写から力強く大胆な墨筆まで表現の幅も広いそうです。
 たとえば、初公開の大作「六歌仙図押絵貼屏風」。平安時代初期、歌道に秀でて歌仙と称された在原業平や小野小町など6人の歌人を描いています。〝色男〟とされる業平はなかなかの男前に描かれ、小野小町はあえて顔を見せない後ろ姿でその美しさを想像させるなど、パッと見は普通の六歌仙ですが顔立ちもポーズもどこかユニークです。また、屏風絵のような大作はなかなか出てこないため、貴重な展示といえます。
 また、ヒキガエルとフグの相撲という〝異色の取り組み〟を描いた「蝦蟇河豚相撲図」(がまふぐすもうず)はとりわけユニークでユーモラスな作品です。2011年に発見されました。福士さんは「図上には漢詩で『力尽くの争いはやめよう』と教訓的なことが書かれていますが、実際に何でこんな絵を描いたのか考えるとシリアスな現実的問題が背景にあるのでは」と分析します。表現としては「ユーモリスト若冲の真骨頂の作品」です。

「蝦蟇河豚相撲図 江戸時代(18世紀)伊藤若冲筆」


 また、「布袋図」(ほていず)は、相好を崩し、かわいらしい布袋さまに描かれています。七福神として有名で、両手で大きな袋を担ぎ上げている様子は同じです。ちなみにこの袋の中には価値がつけられないほど尊いもの、つまり「仏性」が入っているといます。まじめなテーマを扱いながらそこに笑いを入れようとしているのが若冲らしいですね。
 「果蔬涅槃図」(かそねはんず)は、お釈迦様が入滅される様子「仏涅槃」を野菜で表現した作品です。福士さんは「パロディーではないと特に最近は強調されがちな作品ですが、やはり一方で、見る人の笑いを誘う意識、そういう表現がいろいろ隠されています」と分析します。釈迦は二股大根で、沙羅双樹の木はトウモロコシで表されるほか、嘆き悲しむ菩薩や羅漢、いろいろな動物などもすべて野菜や果物で描かれています。さすが青物問屋の主人の本領発揮、画面を見ていると物言わぬ野菜たちが本当に悲しみに暮れているように思えてきます。

「果蔬涅槃図 伊藤若冲筆 江戸時代(18世紀) 京都国立博物館」


「大根に鶏図 伊藤若冲筆 江戸時代 寛政元年(1789)~天明8年(1788)」


 「若冲」と同時開催で、来年の干支の酉(とり)にちなんだ特集陳列「とりづくし-干支を愛でる」も開催されています。今年初頭に開催した「さるづくし」に続く第二弾だそうです。担当する企画室研究員の井並林太郎さんは「一般の方にもわかりやすい切り口で、お正月にたくさん来ていただきたいという趣旨でこの展示を始めました」と話します。
 注目の作品は、比較的最近、同博物館で購入した「白梅群鶏図」(はくばいぐんけいず)です。作者の狩野永良は若くして亡くなったので作品が少ないのですが、その中の貴重な一点です。狩野派といいますが、遠目に見ると若冲の鶏に近いのではないかと思われ、一つ一つのモチーフの質感、触り心地を的確に表しているといいます。

「白梅群鶏図 狩野永良筆 江戸時代(18世紀) 京都国立博物館」


 また、十二支の動物たちの歌合わせの審判を任されたのにうまくできなくてやり込められたタヌキが、十二支に入っていない動物たちを集めて軍を結成して、十二支の動物に戦を挑むというユニークな絵「十二類絵巻」もあります。動物の持つキャラクターを的確に表現した作品ですが、おもしろい発想です。
 また、雪舟の「四季花鳥図屏風」も展示されています。雪舟は、遣明船に乗り込んで明に渡り本場の水墨画に親しみました。そのときに見たであろう明の花鳥図を参考に描いたのがこの作品だそうです。 

「重要文化財 四季花鳥図屏風 右隻 雪舟筆 室町時代(15世紀) 京都国立博物館」


 いずれの展覧会も1月15日まで開催しています。この冬京都を訪れる機会のある人は必見の展覧会です。

京都国立博物館、正面は現在休館中の明治古都館  (写真・田中幸美)


◆「生誕300年 伊藤若冲」と「とりづくし-干支を愛でる-」は京都市東山区茶屋町527の京都国立博物館で。2017年1月15日まで開催。午前9時30分~午後5時(金・土は午後8時まで、月曜休館、ただし月曜が祝日の場合は開館して、翌火曜に休館)、12月26日(月)~2017年1月1日(日)は休館。☎075・525・2473(テレホンサービス)
京都国立博物館の公式ホームページは、http://www.kyohaku.go.jp/jp/


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