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北マケドニアより届いた驚異のドキュメンタリーから見える、かすかな希望《映画でぶらぶら》


 毎日、不安な日々が続いている。新作映画は次々に公開延期、都内の映画館も休館や上映の縮小を余儀なくされている。映画館への休業補償はされないのか? 映画業界の今後はどうなるのか? 苛立ちが募り、政府や自治体への怒りばかりが膨らんでいく。

 そんな鬱々とした気分のなか、北マケドニアから届いた映画『ハニーランド 永遠の谷』を見た。電気も水道もない山奥に暮らす自然養蜂家の女性、ハティツェの生活を追ったドキュメンタリー。自然と共生しながら暮らす稀有な養蜂家と聞き、最初、いわゆるスローライフを謳った作品だろうと想像した。だが先入観はすぐさま覆された。とにかく驚くほどエンターテインメント性に溢れた映画なのだ。

 険しい崖を登り、素手で蜂の巣を取り出すハティツェは、子供と戯れるように蜂と触れ合い、聖歌を歌いながら蜂蜜を“半分だけ”頂戴する。彼女の逞しさとユーモア、画面に溢れる幸福感にうっとりと見惚れてしまう。

 ハティツェは、病で寝たきりの母と二人暮らし。貧しい生活だがどこか楽観的で、環境に合わせた生き方を知っている。彼女が半分しか蜂蜜を採らないのは、それが蜂と共生する最良の方法だから。お互いを尊重し合えば、人間はこの先もずっと美味しい蜂蜜を分けてもらえるはず。

 そんなある日、村に、7人の子供と大量の牛を飼う大家族がトレイラーで越してくる。隣人ができたことを喜ぶハティツェは、子供たちと遊び、養蜂の仕方を伝授する。だが隣家の男は彼女の警告を聞かず、周囲の生態系が徐々に破壊されていく。自分の利益しか見ようとしない隣家の男を、彼女は悲しそうに見つめている。とはいえ、借金を抱え大家族を養う男もまた、市場の要求に必死で応じているだけ。男が村に持ち込んだのは、資本主義社会そのものだ。

 映画は、3年をかけて撮影された。観客は急変するハティツェの生活に立ち会い、その悲しみ、怒りを共有する。これほど劇的なドラマを、ドキュメンタリーというかたちで捉えられたことに驚嘆する。ここには、多くの喪失と、人間がもたらす残酷さが生々しく記録されている。それでも、長い冬が明け、山に光が溢れる頃、かすかな希望が見えてくる。今はただ、その光を静かに見つめていたい。

metro209_ハニーランド_サブ.jpgギリシャの北に位置する北マケドニア、山岳地帯の荒々しい美しさにも魅了される

This Month Movie『ハニーランド 永遠の谷』

 北マケドニアの山岳地帯、電気も水道もない村で、病気の母親と暮らす女性ハティツェ。「半分は自分に、半分は蜂に」をモットーに、彼女はヨーロッパで最後の自然養蜂家として暮らしている。ある日、隣に7人の子供と牛を引き連れた一家が越してくる。一家と親しくなるハティツェだが、これを機に、静かな生活に大きな変化が訪れる。3年の歳月をかけ、自然と人間との厳しい関係性を捉えた驚異のドキュメンタリー。

監督:リューボ・ステファノフ、タマラ・コテフスカ


旧作もcheck!

『息の跡』

 東日本大震災の津波被害にあった陸前高田市で暮らす、たね屋の佐藤貞一さんを追ったドキュメンタリー。こちらも驚嘆すべき人物を豊かに捉えた傑作。

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監督:小森はるか
DVD 3800円
発売元:東風
販売元:紀伊國屋書店

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