おでん種を買いに。[おいしいおでんが食べたい!]

グルメ, おでかけ

 今や見かけることが少なくなった、おでん種の専門店。受け継がれる店の味を手に入れるため、個人店が数多く残る下町エリアを訪ね歩いた。


 かつて日本橋にあった魚河岸で江戸時代に創業した〈神茂〉や、昭和13年に築地で創業した〈紀文〉などに代表されるように、おでん種の老舗は魚河岸の中心地である東京の東側に多い。

 そんなおでん種の中心地で最初に訪れたのは、人形町にある名店〈おでん 美奈福〉。昭和28年に創業し、現在は2代目の加藤惠子さんと妹の雅子さんが店を切り盛りする。店は近隣のサラリーマンから家族連れ、お年寄りまでつねに客足が絶えない。ダシは高級料亭などが使用する本枯節を砕いて煮干しとともにとり、しらたきは一から手巻きし、豊洲から仕入れるタコやホタテなどの海鮮類も毎日丁寧に下処理する。そんな手間暇をかけて仕込まれたおでんのおいしさもさることながら、忙しいなかでもお客さんに(ときには犬にも)ひと言ふた言冗談を飛ばし、飄々と接客をこなしていくその仕事ぶりにも感服する。こんな人情味に溢れる店が、東京のど真ん中にもまだ残っていたなんて。おでんを食べる前からなんだか温まった気がした。

 次に水天宮前駅から向かったのは、かつての深川の面影が残る清澄白河。江戸深川資料館のほど近くにある〈美好商店〉も、100年以上の歴史をもつ老舗だ。保存料、着色料無添加のさつま揚げはその日販売する分のみ手作りする。手土産にもぴったりな深川揚げはマストで買って帰りたい。〈美好商店〉から東へ徒歩15分ほどのところにある昭和23年創業の〈中むらとうふ〉も必見。日本各地の大豆ごとに作られた豆腐や、各種がんものほかおでん種も充実。食べ方を丁寧に説明してくれる接客にも癒やされる。

 最後に訪ねたのは、向島のなんともいえない哀愁の漂う鳩の街通り商店街だ。その一角に見える人だかりこそ、おでん種の専門店〈佃忠〉。都内に3店舗あるうちの一軒で、創業者の息子三兄弟が店を継いでいる。ひっきりなしに訪れる常連客と店主のかけ合いを横目に、軒先であつあつのおでんを頬張り、自家製の練り物を購入した。

 かつては東京中にあったというおでん種の専門店も、今や後継者不足やスーパー、コンビニなどの台頭により減少の一途を辿っている。それでも、まだ下町にはこうして各店の味を買い求める食文化が残っていた。同じおでんであっても、同じ味は一つもない。店の数だけ違った味に出合える豊かさを、〈佃忠〉のいか天とともに噛み締めた。


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ほたて貝(左)350円、たこ(中)380円、ウインナー巻き(右)220円。「この店を継ぐために、嫁ぎ先は人で選ばず場所で選んだ」と言う惠子さん(左)と、「タコはこの値段では赤字です」という雅子さん。軽妙なジョークを飛ばしていつでも人を楽しませてくれる。

おでん 美奈福
住|東京都中央区日本橋人形町2-11-12
営|12:30〜18:00
休|日曜


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深川めし同様アサリとネギが入った深川揚げ(左)140円。唐辛子がアクセント。ぎょうざ巻(中)151円。ニラ、キクラゲ、椎茸が入ったにくらし揚げ(右)140円。名の由来は「憎らしいほどおいしい」。

美好商店
住|東京都江東区三好2-12-7
営|9:00〜18:00
休|月・日曜・祝日


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直径15cm以上、重さ400g以上もあるぜいたくがんも(左)758円。栗、銀杏、ごぼう、レンコン、ひじきが入って大満足。対極の小がん(中)は1個98円。国産大豆で作る焼き豆腐(右)350円もおでんにおすすめ。

中むらとうふ
住|東京都江東区千田2-7
営|10:00〜18:30
休|日曜


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〈佃忠〉のシューマイ巻(左)140円、いか天(中)80円、あげボール(右)10個320円(1個から購入可能)。店先のおでん鍋で煮込まれるできたてのおでんも魅惑。良心価格なうえ、特売の日は全品1割引とさらにお得に。

佃忠
住|東京都墨田区向島5-49-5
営|9:30〜19:30
休|日曜



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