朝晩めっきりと冷え込むようになり、日一日と秋の深まりを感じますね。野山は次第に紅く色づき、さまざまな収穫を迎える秋は1年のうちでもっとも趣のある季節です。四季の移ろいを投影する和菓子の世界でも秋は特別です。そこで、新宿高島屋の女性和菓子バイヤーの山本友里さんにお薦めの秋の和菓子を選んでもらいました。
入社6年目、最年少で店舗担当の和菓子バイヤーに就任して3年目の山本さんは、「若いお客さまにも和菓子を選ぶ楽しさや日本の四季を表現する和菓子の素晴らしさを知っていただきたい」という思いでバイヤーの仕事をしています。

新宿タカシマヤの和菓子売り場=東京都渋谷区千駄ヶ谷 (写真・田中幸美)
「今回は一口食べたら秋を感じられるものを中心に選びました」。さらに、見た目と違って非常に濃厚だったり、一見洋菓子のように見えるなど「意外性のあるもの」も織り交ぜたということです。
まず、秋の代表的な食材を用いた和菓子からご紹介しましょう。
秋といえば栗。〝栗と北斎と花の町〟と呼ばれる長野県小布施町には栗菓子を専門とする和菓子店がたくさんあります。中でも缶詰めになった「栗鹿ノ子」が人気の「小布施堂」は代表的な栗菓子店の1つです。小布施堂ではほとんどの菓子を栗あんで仕上げるそうです。今回、山本さんが薦めるのは「栗むし」(864円)。丁寧に練り上げられた栗あんに栗の渋皮煮を入れたぜいたくな作りで、栗本来の風味をじっくり味わうことができます。渋皮煮には宮崎産の栗を使用し、栗あんは地元小布施と茨城県、熊本県の栗を混ぜ合わせて作っているそうです。1年中販売していますが、新栗を使えるのは今の時期だけ。11月3日の出荷分までは新栗の栗むしを味わうことができます。

「小布施堂」の「栗むし」(864円・税込み)は、今の時期だけは新栗を楽しむことができます (写真・田中幸美)

「大文字飴本舗」の「極み 栗あめ」は、見た目よりも濃厚な味がします(411円・税込み) (写真・田中幸美)
栗をあめにしたのが、「大文字飴本舗」(京都市右京区)の「極み 栗あめ」(411円)です。丹波栗のみを使用し、香料を使っていないのが特徴で、見た目とは異なりかなり濃厚なあめです。「一口なめると口の中に秋が広がります」と山本さん。こちらは高島屋限定の一品です。
栗と並んで秋の味覚の代表といえばサツマイモですね。滋賀県愛荘町の「しろ平老舗」の「黄金(おうごん)いも」(864円)は一見、洋菓子のスイートポテトのよう。五代目、岩佐昇さんは、徳島県産の鳴門金時の中でも、鳴門市里浦町でできる「鳴門金時」にこだわっています。里浦のものは、海抜ゼロメートルの天然の海砂地で栽培されているため、ミネラルを豊富に含み栄養がたっぷりだからです。さらに裏ごししても繊維が残らずお菓子作りに適してるそうです。
黄金いもは、鳴門金時にバターと生クリーム、さらに白あんをたくさん練り込んで和のスイートポテトに仕上げました。「白あんをたっぷり使っているのが最大のポイント」で、それによってバターや生クリームのくどさは消え、口どけもまろやかで、イモ本来の甘さとほくほく感を楽しめます。皮の部分がおいしいのもうれしいですね。「トースターなどで温めたり、焦げ目を付けたりして食べてもおいしいです」と岩佐さん。
食欲の秋もいいのですが、紅葉に代表されるように見た目にも美しいのが秋ですよね。「銀座 菊廼舎」(きくのや・東京都中央区)の干菓子「登録商標 冨貴寄せ 秋色缶」(ふきよせ・1728円)はまさしくそんな秋にぴったり。「パッケージもかわいいですが、ふたを開けると思わずワ-ッと声をあげそうになります」と山本さん。紅と黄色のもみじや紫色の菊の干菓子をはじめ、コンペイトーや黒豆、和風クッキーなどを丸い缶に詰めました。まさしく缶に詰まった秋です。最中の生地でできたフクロウのケースの中にも干菓子やコンペイトーが入っていて、思わずほっこりします。

「しろ平老舗」の「黄金いも」(864円・税込み)は、こだわりの鳴門金時を使って、イモ本来のホクホク感を生かしました。写真は大サイズを2等分したものですが、少し小さい中サイズのものもあります (写真・田中幸美)

「銀座 菊廼舎」の干菓子「登録商標 冨貴寄せ 秋色缶」(1728円・税込み)は缶の中に秋が広がっています (写真・田中幸美)
秋の代表的な行事といえば「ハロウィーン」。そもそも西洋の宗教的な意味合いの強い行事ですが、日本ではイベントとして楽しむ要素が強いですね。今年はハロウィーンをモチーフにした生菓子もそろいました。
ハロウィーンはもともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い払う宗教的な意味合いのある行事です。原点となったのはケルト人の収穫感謝祭で、新年1日目にあたる11月1日に、悪い精霊や神が現れると信じられていました。また、大みそかの10月31日には、死んだ人の魂が家族の元へ帰り、さらに悪霊や魔女が町をさまようともいわれます。
そんなハロウィーン本来の意味にこだわったのが「乃し梅本舗 佐藤屋」(山形市)の生菓子「門ひらく」です。八代目の佐藤慎太郎さんは、31日に死後の世界の門が開き、死者が現世に帰ってくることにちなんで、宙をヒラヒラさまよう可愛いオバケをイメージして作りました。ういろうを素材に中には粒あんを入れました。生菓子にはこしあんを使うことが多いですが、粒あんの方が野趣味あふれ秋の収穫のイメージに合うと考えたそうです。佐藤さんは「今の日本では意味も考えずに仮装祭のようになっています。行事の背景をきちんと盛り込むのが和菓子の神髄ですから」と話していました。
「引網香月堂」(富山県高岡市)の四代目、引網康博さんの「月に魔女」は、まるで宝石をちりばめたような美しさです。それもそのはず、引網さんの作る生菓子の繊細な美しさから今春には、スイーツをモチーフにしたアクセサリーブランド「Q-pot」がさくらの生菓子をペンダントトップにしたくらいです。
ハロウィーンの生菓子は「日本的な〝組み合わせの妙〟」を込めたくて、魔女が暗闇の中をすーっと飛んでいく姿を想像しました」と引網さんは話します。背景に黄色いまがまがしいくらいの大きな月をと考えていたら、歌川広重の傑作「月に雁」(つきにかり)がひらめき、「月に雁」の図案をアレンジして仕上げました。菓名は広重を連想してほしくて「月に魔女」としたそうです。
「しろ平老舗」の生菓子「ハロウィーン」は、カボチャをモチーフにしました。当初、カボチャを使った生菓子を作ろうかとも考えたそうですが、「練り切りを食べたことのない若い人にもぜひ、知ってほしい」と、練り切りとあずきのこしあんを使い、シンプルでかわいらしいデザインにしたそうです。思わず手に取りたくなるかわいらしさです。
和菓子は季節感が命です。秋ならではの和菓子を楽しんで、秋を身近に感じではいかがでしょうか。

「乃し梅本舗 佐藤屋」の生菓子「門ひらく」(324円・税込み) (写真・田中幸美)

「引網香月堂」の生菓子「月に魔女」(324円・税込み) (写真・田中幸美)

「しろ平老舗」の生菓子「ハロウィーン」(324円・税込み) (写真・田中幸美)
※価格はすべて税込みです。また、商品によっては売り切れになることもあります。
◆新宿高島屋 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-2(平日と日曜は午前10時~午後8時、金・土曜は午前10時~午後8時30分)、問い合わせは☎03・5361・1111。