狭間にいる人々はグライダーで空に飛び立ちたいと願う

《吉祥寺》夢と現実の狭間で描かれる夫婦の切ない舞台劇「風は垂てに吹く」

演劇, カルチャー

 新たな舞台表現を追求している演劇ユニット「テトラクロマット」の公演「風は垂(た)てに吹く 愛していると言うかわりに、空を飛んだ」が、18日から東京・武蔵野市の吉祥寺シアターで始まりました。

 脚本は「テトラクロマット」の創設メンバーでもある坂口理子さん。坂口さんはスタジオジブリの映画「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)も担当し、多くの受賞歴がある脚本家です。

 物語の軸となる登場人物の夏月には、視力、聴力、感覚は保ちながらも随意筋の完全麻痺により周囲に自分の意思を伝えられない病気TLSになってしまった、元飛行士の夫がいます。医師から、夫を延命させるには人工呼吸器しかないが一度装着したら外すことはできない、装着するか、しないのかと判断を迫られ苦悩します。夫はこんな体でも生きることを望むのか、それとも…。

 やがて、夏月は夜明けに現れるという伝説の雲「モーニング・グローリー」の絵を描くために、廃墟の天文台を訪れます。伝説の雲に出会うことでもしかしたら奇跡が起きるかもしれないと期待する夏月は、時間の狭間である異空間に迷い込み、ずっと昔に行方不明となった特攻隊員の男やシャボン玉を吹き続ける少女、飛行服を着た少年などに出会います。人々は、エンジンのないグライダーを製作し、空に飛び立つことを夢見ています。実は、飛行服を着た少年の正体は夫なのでした…。

 観客は時間、空間が自由自在に変化する幻想的な世界に引き込まれ、夢と現実の世界の切なさに胸が詰まります。坂口さんは脚本について「届くはずもない思いが届く奇跡があってもいいのではと思って書きました。もともと、なにかの狭間などあいまいなものが好きで、そこには思いを残している人たちや行方不明の人たちが存在することで、残された人の心の救いにもなるとも思っています。不寛容な世界ではなく、曖昧なものを受け入れる人の心の優しさ、余裕のある世界も表現したかった」と語りました。

 夫である少年を演じた大藪丘さんは、「自分の内面から出てくるものでないと演じていても薄っぺらになるので苦戦しました。この舞台を見終わった人が、大切な人に電話したくなるようなそんな気持ちになって帰ってほしいと思っています」と熱く話してくれました。

 公演は23日(火)まで。

狭間に入り込んだ夏月(中央:北川弘美さん)

少年(夏月の夫)を演じた大藪丘さん

「風は垂てに吹く」

公演日程 8月23日(火)まで。22、23日の両日は1公演(午後7時30分~)のみ。

会場   吉祥寺シアター

     武蔵野市吉祥寺本町1-33-22 tel 0422-22-0911

チケット 前売り4500円、当日4800円、22歳以下3000円

チケット取り扱い  テトラクロマット公式サイト  http://tetrachromat.net


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