スイスに生まれ、フランスで活躍した20世紀を代表する彫刻家の一人、アルベルト・ジャコメッティは、「見えるままに表現する」ことに生涯かけて挑み続けた。その半世紀近い苦闘の跡をたどる大規模な回顧展が、国立新美術館(東京都港区)で開かれている。南仏・マーグ財団美術館のコレクションを中心に、初期から晩年までの彫刻、素描や油彩、版画など計132点が並ぶ。
ジャコメッティといえば、身体を細長く引き伸ばされた人物像。どこが「見えるまま」なのかと思うかもしれない。
「見えるまま」とは、写真のように写実的に描くことでも、3Dプリンターのように物理的にそっくりに造形することでもない。芸術家の主観によるが、知覚が捉えるまま“現実”を表すこと。視覚的な問題だけでなく、もっと深く人間の存在を突き詰め、本質に迫ろうとしたのだ。
「犬」1951年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館 やせ衰え悲しげな犬の姿をジャコメッティは自分に重ねていたという